ハリスの考える進化10

第二の理由は多様性だと言います。親とまったく同じ子どもをつくり出すのなら、クローンが最も手っ取り早いと言います。実際その方法に頼る植物、動物もいます。クローンはたいへん効率がいいのです。ノアももしクローンにより増殖する種ばかりを方舟に乗せていれば、その時間は半分ですんだはずだと言います。何しろ一種に一体あれば十分なのだからです。しかしクローンで生まれた個体はきょうだいたちとまったくそっくりで、一体を死にいたらせるもの、たとえば有害な微生物などはすべての命を奪うことになりかねないと言います。卵子と精子の結合ごとに遺伝子の組み合わせが異なる有性生殖が編み出されたのは、多様性に富む子孫を残すためであり、それが大型生命体が彼らを苦しめた微生物よりも優位に立つことを可能にしたのだったのです。しかしながら、子孫間におけるばらつきは他にも利点があると言います。多事多端な時代にあっては、ある子孫が新しい状況に適応して生き延びる可能性を生み出します。多難な時代であれば、家族が生存できる生態的地位を増やすことになるのです。時代の善し悪しにかかわらず、家族内でのばらつきはより広範囲にわたる技術や知識の基本層の拡がりを可能とし、それは家族全体にとって有益となるというのです。

ノアが方舟に乗せた他の動物たちのように、人間もどのように行動するかという特徴の多くを親から受け継ぎます。もし親が遺伝的にだけでなく、環境的にも影響を及ぼすのであれば、子どもたちは親に酷似しすぎることになり、それは子ども同士が酷似しすぎることにつながってしまうのです。まるで小さなクローンであるというのです。

子どもは親によって。プログラムされるという考え方が進化に反するという第三の理由は、子どもは必ずしも親を当てにできないということだとハリスは言います。今日、シングル・ペアレントの元で育てられる子どもたちの行く末が案じられ、神聖なる契りを交わした二人が両親であった50年前の古きよき時代と比較されます。しかし異性同士の両親が揃っていることは、私たちの先祖の時代でも当たり前のことなどではなかったそうです。人類学者ナポレオン・シャノンは、ブラジルとベネズエラの熱帯雨林に生息するアマゾンのインディオのヤノマミ族では、10歳の子どもが生物学的な両親と同居する割合は三人に一人であることを報告しているそうです。結婚の20パセントはダメになってしまうとシャノンは推測しているそうです。ヤノマミ族の離婚率は比較的低いのですが、代わりに死亡率が高いそうです。部族社会では、親を亡くすと子どもが生き延びる可能性は低減しますが、決してゼロにはならないそうです。もし学ぶべきものを学ぶために親が必要だというのであれば、親を亡くすということは先祖の時代では死活問題であったはずだというのです。