ハリスの考える進化7

人類の祖先がチンパンジーとの共通祖先から分岐してから600万年、その間私たちはその大半を木の上ではなく、地上で過ごしてきました。同じ集団のメンバー同士で友好関係を築き、別の集団と戦ってきました。横着者を見分けるために才能に磨きをかけ、同時にその探知法の裏をかくためにもまた才能に磨きをかけてきました。

そのほとんどの間、私たちは狩猟採集民として小集団を形成して生活してきました。集団が順調に増殖しつづけて大きくなると、それが分裂し、娘集団のうち順調な方がかんばしくない娘集団を戦いで打ち負かします。それが繰り返されたのです。その600万年間の進化が私たちにもたらしたものは、この大きな脳です。それには一得一失がありました。脳はエネルギーの大口消費者であり、お産を危険なものとし、まるで足かせを引きずるように一年近く乳児を束縛します。そのもろさと大きさから敵の攻撃の格好のターゲットにされてしまうのです。

しかし強みもあります。ジェーン・グドールのチンパンジーたちは近隣集団のメンバーを一人ずつねらい殺さなければなりませんでしたが、ヨシュアは一撃のもとに都市全体の住民を皆殺しにしたのです。都市は城壁で囲まれていたため、それは決して簡単なことではなかったはずです。トランペットを使った小細工が通用したのはエリコだけです。それ以外の都市では神業的な仕掛けに頼ることなく城壁を突破しなければならなかったのです。アイでの彼の企みは実に狡猾でした。まず小部隊が都市へ突撃し、それから退却します。するとアイの人々は敵を倒したと思いこみ、最後のとどめを刺そうと追撃します。彼らは都市を無防備に開け放したまま都市を離れ、まんまとヨシアの罠にはまるのでした。

悪巧みは私たち人間がもつ特技の一つであり、心の理論を思い出させるとハリスは言います。ヨシュアがアイ市民の行動を解きあてることができたのは、ヨシュアが彼らの思考を想像することができたからです。彼はアイ市民を騙せると確信し、そのために巧みな計画を考案したのです。さらにその成功に大きく貢献したのがヨシュアと他の司令官たちとの連携のよさでした。

もちろん彼が大部隊を率いていたこともマイナスにはなりませんでした。しかしそれもまた頭脳の発達の成果だったのです。チンパンジーの〈われわれ〉には自分の知るメンバーだけしか含まれません。見知らぬ個体は自動的に〈彼ら〉と分類されるのです。ヨシュアの頃となると、人間の形成する集団はあまりに大きくなりすぎて、メンバーが皆と顔なじみというわけにはいかなくなったのです。集団は一つの概念、思い描くものとなったのです。ヨシュアがエリコの城壁の外で見知らぬ人と出会えば、彼は「汝はわれわれの一味か、それとも敵か?」と尋ねて、〈われわれ〉なのか〈彼ら〉なのかを確認しなければなりませんでした。敵よりも大規模な集団を形成できるということは頭脳的にも勝っている証明であり、その効果は一目瞭然でした。もしエリコ、アイ、マケダ、リブナ、ラキシュそしてエグロンが連合してヨシュアに対抗していたら、ちがう結末を迎えたかもしれないとハリスは言います。しかし、都市の周りには城壁があり、それには市民を別の都市の攻撃から守るという目的がありました。