ハリスの考える進化5

ヨーロッパの探検家たちがはじめてニューギニアの奥地に足を踏み入れたとき、彼らが目にしたのはまさしくバベルの塔そのものであったと言うのです。テキサス州程度の広さに1000もの言語が飛び交い、しかもそのほとんどに共通性がありませんでした。ジャレド・ダイアモンドは白人到来前の島の様子を次のように語っています。

「しかし、ほんの数マイル先に彼ら〔別の人間〕が住んでいたとしても、領地を出てそのような人間に会いにいこうという冒険的な試みは、自殺にも等しいことでした。…このような隔離は大きな遺伝的多様性をもたらします。ニューギニアでは、谷ごとに独自の言語や文化があるだけでなく、独特の遺伝的異常や風土病があるのです。(長谷川眞理子・長谷川寿一訳『人間はどこまでチンパンジーか?』新曜社)

こうしたことからニューギニアのある部族ではハンセン病の発病率が世界一高く、他の部族でも聾唖、男性における偽両性具有、成熟前の老化、思春期の遅延などの発現の頻度が高くなっていました。部族間の遺伝子レベルの違いはおそらく一つか二つの遺伝子の突然変異によるものだと考えられますが、その違いこそが部族間の違いを生み出しているのです。わずかな違いではありますが、それぞれの集団は分裂してからまださほど時間は経っていないのです。

時の流れは分離した二つの集団の隔たりをさらに拡げました。動物の中には、生物学者が遺伝的浮動と呼ぶように、違いが徐々に、しかも不規則に増えつづけるものもあったそうです。しかし「ホモ」属ではその過程が不規則ではないかもしれないし、偽種分化によってその速度も速まるかもしれないのです。ヨーロッパの人々の間に見られる視覚的な違い、たとえば北欧の人の金髪とイタリア人の黒髪、この違いはあまりにも短期間に進化したため、金髪か黒髪か、それがいずれかが健康によいという理由だけでそのように進化したとは考えにくいと言います。おそらく異性の好みが後押ししたのだろうと考えているようです。美しい髪をもつ人間がはじめて登場したのは偶然だったのかもしれませんが、結婚相手としてそのような人間が求められるようになれば、その子孫の数は急激に増えることになります。いずれにしてもこのような特性は〈われわれ〉と〈彼ら〉を区別する目印になります。

人類の体毛の薄さはこのように進化を遂げたのでしょう。おそらく最終段階間近になってから、しかもわずかな時間だったのではないかと考えられます。体毛の薄い種が登場したのは、ネアンデルタール人を生み出した北方系「ホモ・エクトゥス」が私たちの祖先である南方系と交配しなくなってからのことです。おそらくサピエンスにサピエンスが付記されてからのことだったのでしょう。わずか13万年前です。はじめは体毛の薄い集団と、サル同様に毛深い集団への偽種分化だったのでしょう。毛深さが敬遠されるようになり、元来体毛の薄い集団はますます体毛も薄くなる一方で、他方集団はサル同様毛深いままでした。毛が薄いことで利点があるわけではありません。たんに〈われわれ〉と〈彼ら〉を区別しやすくなっただけなのです。その境界線が明確になると、次なるステップは毛深い集団に戦いを挑み、彼らを一掃することだったのです。