ハリスの考える進化4

サルや人間の集団が分裂するとき、過去につきあいのあったもの同士が行動をともにするのが普通だそうです。すなわち一族郎党を多く含む側につく傾向があるのです。ところが両側に一族郎党がいるために、どちらにもつけるという場合が必ず生じます。ジェーン・グドールが観察していたチンパンジーの集団が二つに分裂したとき、年老いたオスのチンパンジーのゴライアスがなぜカハマ集団と運命をともにすることにしたのか、ジェーンは最後まで解せなかったそうですが、その決断によって彼は命を落としてしまったのです。

ゴライアスがなぜそう決断したのかはわからないと言います。しかし人間集団が分裂する場合、人は自分が溶けこみやすいと思う側を選ぶ傾向にあると言われています。人間社会のように家族単位で形成されるものであれば、どちら側につくか選択の余地はまずありません。もし自分の裁量で決める人がいるとすれば、その人は自分と共通点の多い側を選ぶでしょう。その結果、多くのケースでそうであるように、娘集団間に統計的な差異が見られるようになるのです。両集団のメンバー間で行動形態、外見にわずかに違いがある場合がありますし、また違いがまったく見られないという場合もあると言うのです。

人間の場合、集団間の敵対心はすでに両者間に存在していた違いをさらに際立たせ、当初は違いがない場合でも、新たに違いを生み出します。それでは主客転倒ではないか、両者の違いこそが敵対心を喚起するのではないか、と思うかもしれません。しかしハリスは、敵対心が両者の差を拡げることの方が多いと考えているそうです。ある集団のメンバーは相手集団から区別化を図ろうとします。ある人のことを好きになれなければ、その人とはまったく違う人間になりたいと願うものだと言うのです。こうして両集団はそれぞれ別の習慣を築くようになり、タブー視するものも違ってきます。服装も身の飾り方も違ってくるのです。それが敵と友人を見分けるのに効果的だからです。使う言語さえ違ってきます。

アイブル=アイベスフ=ルトはこう述べているそうです。

「人間は下位集団を形成したがる傾向が強く、別の集団を見分けるために違った方言や特徴を身につけ、新たな文化を形成するにいたる。…他とははっきり区別された集団の一員として生きることは人間性の基本的特徴といえるだろう。」

この過程は「偽種分化」と呼ばれているそうです。もしこの偽種分化も前人間性の基本的特徴であったならば、進化の速度は著しく速まっていたことだろうと言うのです。集団が分裂し、お互いからの区別化を図り、戦争が勃発し、戦争によって交配は絶たれ、もしくは激減し、真の種分化への基礎が固まるのです。仮に一方の娘集団が戦闘能力により長けていれば、他方を一掃することもできたでしょう。もちろん一方が打ち勝つだけかもしれないませんが、そうなると進化の速度ははるかに遅くなってしまいます。

ニューギニアの部族社会がこの偽種分化の過程のモデルを提供してくれているそうです。ヨーロッパの探検家たちがはじめてニューギニアの奥地に足を踏み入れたとき、彼らが目にしたのはまさしくバベルの塔そのものであったと言うのです。