戦いの勝者

横着者はささいな脅威にすぎませんでした。山の向こうにはより大きな危険が迫っていたのです。敵が兵力を結集していたのです。ジェーン・グドールは、こんな言葉を残しています。

「初期の戦闘行為は、知能とますます洗練されていく集団構成員間の協力とを発達させる淘汰圧になったのではないだろうか。ある集団の知能と協力態勢、そして勇敢さが増せば増すほど敵にもそれが要求されるようになることから、この過程はエスカレートされていく。」

都市エリコから煙が消えた時、横着者も協力者も分け隔てなく殺されました。臆病者も、勇敢な兵士も分け隔てなく命を落としました。こうした戦争で勝者に与えられるのは進化だとハリスは言います。彼らの戦法をどれだけ嘆いても、彼らこそが私たちの祖先となったのだというのです。

人類の祖先は、およそ600慢年前にチンパンジーとの共通祖先から分岐しました。600万年という年月は進化の過程としては決して長くはありません。人間と現生チンパンジー、「パン・トログロダイテス」とは96パーセントものDNAを共有する間柄です。人間とチンパンジーとのDNAレベルでの距離は鳥の近縁種であるアカメモズモドキとメジロモズモドキとの間よりも近いとハリスは言います。

新たな種の誕生には多くの遺伝子が必要なわけではないそうです。分類を決定する臨界期に組み合わせがわずかに変わるだけで、結果は大きく変化します。たとえば、人間の体毛の薄さに関連する遺伝子はごくわずかしかなく、進化の過程でも比較的短期間のことだったに違いないようです。人間の体にはサルと同数の毛穴がありますが、そのほとんどからはわずかな毛しか生えてこないそうです。メキシコのある家族では、そのうち何人かに顔中まぶたまで毛に覆われるという突然変異が起こる場合もあるそうですが、それを誘発しているのはたった一つの遺伝子だということがわかっているそうです。

人聞の直立歩行もまた比較的短期間で進化した特徴です。「アウストラロピテクス・アファレンシス」という、最初に化石として発見された「ルーシー」とその仲間たちの脳はチンパンジーの脳とほぼ同じ大きさで、しかも彼女たちは直立歩行していました。350万年前のアフリカでの話です。

形勢がおもしろくなってきたのは250万年前に「ホモ・ハビリス」が登場してからです。彼らの脳はそれまでの霊長類の脳よりもはるかに大きかったのです。道具をつくり、使用する能力をもっていたことから、器用な人という意味の「ホモ・ハビリス」と名づけられたのですが、後になってわかったそうですが、彼らは道具を使ったはじめての霊長類ではありませんでした。チンパンジーも石を武器にし、実を割るときにもそれを使います。さらに用意された木の枝を使ってシロアリ釣りもします。

次に登場したのが、150万年前の「ホモ・エレクトゥス」です。資料によってはエレクトゥスをハビリスと同系統と位置づけているものもあるそうですが、状况はそれほど単純なものではないようです。ヒト科、そして前ヒト科の多くが過去600万年間、アフリカとの往来を繰り返していたからです。残された数本の骨からだけでは、どの種がどの種の系統をひくのか、どの種が絶減したのかを見分けることは難しく、実際にはほとんどが絶滅していたのです。