野生チンパンジーの観察

ジェーン・グドーは、野生チンパンジーを観察して、チンパンジーが敏感で情の厚い、友好的な集団であることをみつけました。少なくともそれがチンパンジーの第一印象だと言います。子ザルたちは陽気にじゃれ合い、大人のサルは互いにグルーミングを行ない、井戸端会議に興じます。小集団は離合集散が激しく、構成メンバーが四六時中入れ替わるそうです。しばらく顔を合わせなかった二頭が抱き合い、キスを交換しあい、互いを歓迎します。不安なとき、チンパンジーは手をつないで、お互いの肩をかるく叩く安心付与行動をとるそうです。アフリカに生息するカモシカの一種であるブッシュバックやヒヒの赤ちゃんを狩ることに成功すれば、他のチンパンジーは手をいっぱいに差し出しながら優秀なハンターの周りに集い、それぞれが獲物の分け前にありつくそうです。

権力闘争も確かにありますが、それによって死にいたることはまずないそうです。大概は敗者が勝者に許しを請い、勝者が慈悲深くそれを受け入れることで決着するそうです。セックスが原因で憎悪が芽生えることも驚くほど少ないそうです。メスは言い寄るオスを拒みません。上位のオスが特定のメスを独占しようとする場合もあるそうですが、それがねらいどおりにいくとは限りません。そのメスの一番のお気に入りになれればいい方です。ジェーン・グドー観察していたチンパンジーの群れで、フローと名づけた人気のあるメスが発情したときの様子を、グドーは「オスが順番を待つ様子は押し合いへし合いで、まるでニューヨークの地下鉄を利用する通勤客を見ているようだった」と描写しています。

こうした事情から、誰が誰の父親であるかはわからないそうです。オスのチンパンジーは自分の子孫の育児にはまったくかかわりませんが、集団内の幼いメンバーに対しては公平で、情け深い態度で接するそうです。その一方で、母ザルと子ザルとの関係はたいへん親密で、それが一生つづく場合が多いそうです。メスのチンパンジーは、人間の女性、および男性同様、その母性の程度にばらつきがありますが、慨して子どもには甘いそうです。きょうだい関係もまた親密で永続的です。母親を亡くした幼いチンパンジーが年長の、しかもオスのきょうだいに養われることもあるそうです。

しかし、チンパンジーが友好的な態度を見せる範囲にも境界はあります。友好的な態度は同じ集団のメンバーの身に向けられるようです。チンパンジーは集団生活を営む動物であり、その集団は通常は同じ領域に生息する30頭から50頭で構成されているそうです。集団全体が一堂に会することはないそうですが、全員が顔なじみで、その多くが血縁関係ですが、よそ者が入りこめば、一目でそれとわかるようです。

チンパンジーはよそ者を好みません。群れ落ちしたチンパンジーや別の集団に属する個体が碩域内に迷いこんできたら、発情期のメスでないかぎり襲撃の対象となります。赤ちゃんをかかえるメスや発情していないメスは間違いなく襲撃され、赤ちゃんも殺され、餌食にされてしまうことさえあるそうです。