人間とチンパンジー

ケロッグ夫妻は生後7か月半のチンパンジーのグアに、彼らの10か月になる息子同様に、1930年代の人間の赤ちゃんのように扱いました。洋服を着せ、当時の赤ちゃんが履いていた固めの靴を履かせました。グアは檻に入れられることも、縄でつながれることもありませんでした。寝ているとき以外は片時も目を離せませんでした。もちろん、それはドナルドも同様でした。すると、おまるも使えるようになりました。歯も磨きました。食事もドナルドと同じで、同じように昼寝をし、お風呂にも入りました。ケロッグの著書には、グアとドナルドがお揃いのねまきを着て一緒に座っている写真が載っているそうです。ドナルドは不機嫌そうな表情で、グアは唇を上にめくって徴笑み、二人は手をつないでいます。

この写真に見られるような気質の違いはあっても、二人は驚くほど気が合いました。乳幼児期のチンパンジーは人間よりも発達が早いのですが、その点でもドナルドはグアよりも二カ月半早く生まれていたため、バランスがとれていました。彼らはまるできょうだいのように、家具のまわりで追いかけっこをし、大騒ぎをしてはよく笑いました。ドナルドは歩行器が大のお気に入りで、それは大きくてまた重いものでしたが、「ドナルドはその歩行器に乗りこんで、ガタガタいわせながらサルに向かって突進していくのが大好きでした。グアは逃げまわっても結局は突撃を避けられないのですが、ドナルドはその様子を見てけらけら笑っていた」と親は言っていました。しかしグアはそれを嫌がる様子もなく、むしろそのような乱暴な遊びを好みました。実際、二人は世間のきょうだい以上に仲がよかったのです。一方が泣けば、他方が慰めるように肩を叩いて抱きしめました。グアがドナルドよりも早く昼寝から目覚めてしまうと、「ドナルドの部屋に行かせないようにするのがたいへんだった」と振り返ります。

グアはドナルドの数倍も愉快な存在でした。ケロッグ夫妻がくすぐったり、手をもってぐるぐる回したりするとグアはまるで人間の赤ちゃんのように喜びました。一方ドナルドはぐるぐる回されると泣き出してしまいました。グアは抱きしめたり、キスしたりするような愛情表現も豊かで、協力的でもありました。洋服を着せてもらうときも自ら袖に腕を通し、よだれかけを結びやすいようにと頭をちょこんと下げました。人間の男の子ではなく、サルがそうするのでした。何か悪さをして、怒られると「ウーウー」と悲しげな泣き声をあげ、怒った人の腕の中に飛びこみ、「お許しを懇願するキス」をしようとします。そしてそのキスを受け入れてもらえると、ほっと溜息をつくのですが、それは吐息が聞こえるほど大きな溜息でした。

文明的な生活への課題を克服するのは動きの緩慢なドナルドよりもグアの方が早く達成できる場合が多かったそうです。指示どおりに動くことも、スプーンを使って自分で食べること、おまるを使いたいときにその意思表示をすることができるようになるのも、グアの方が先でした。ケロッグ博士が考案したテストにおいても、そのほとんどでサルは人間の子どもと同等かそれ以上の成績を残しています。たとえば、グアはくわ型の道具を使ってリンゴをたぐりよせる方法に精通することに関しても、決してドナルドにひけをとりませんでした。椅子を使って天井に吊されたクッキーを取る方法を習得したのはグアの方が先でした。椅子の置き場所が変わり、クッキーを手にする椅子を別の方向に押していかなければならなくても、ドナルドは相変わらず同じ方向にばかり押していましたが、グアはクッキーから目を離すことなく奮闘し、目指すものを手に入れることに成功したのです。