環境の作用

行動遺伝学は遺伝子の作用と環境の作用とを識別することを目的としています。研究者は特徴を一つずつ取り上げ、その特徴内のさまざまなばらつき、すなわち被験者間の違いを遺伝子によるものと環境によるものに大別します。その結果はというと、研究対象となった大部分の心理的特徴に関しては、そのばらつきの半分は被験者の遺伝子によるもので、残り半分が環境によるものでした。しかし遺伝によるものとされた半数の中には間接遺伝子作用、すなわち遺伝子作用による環境作用が含まれています。それはすなわち、さまざまなばらつきの他方半分は直接、間接を問わず遺伝子の作用ではない純粋に環境による作用、ということになるのだとハリスは言います。。

ばらつきの半分であっても、社会化研究の材料としては十分だと言います。しかし社会化研究者の役目はたんに環境全体が子どもたちに影響を与えるということを実証することだけではありません。環境の中でも、とりわけ親の育児態度という一面が子どもたちに影響を与えていることを証明することなのです。ハリスは、彼らはまだ職務を全うしてはいないようだと考えています。確かに才気ある親の子どもは才気ある子どもになりやすいかもしれませんが、それは遺伝によるものとも考えられます。確かに手厚く育てられた子どもは粗暴な扱いを受けた子どもより心やさしい子どもになるかもしれませんが、それは子から親への影響かもしれないのです。

社会化研究者たちは自分たちの研究材料の中に、子どもたちが生みの親から受け継いだ遺伝的な類似があるとは考えようとしないとハリスは言います。しかし、子どもも親に影響を及ぼす、すなわちこの人間関係は相互作用型であることは徐々に認められるようになってきています。今では親の行動と子どもの行動の相関関係に関する論文のほとんどすべてが、論の終わり近くにではありますが、これらの囚果関係はあいまいであり、報告されている相関関係は親が子に及ぼした影響ではなく、もしくはそれに加えて、子が親に及ぼした影響によるものであるかもしれないとの免責文を記載するようになっているそうです。もっともこの免責文はまるでタバコの箱に記載されている警告文と同じで、記載は義務づけられていますが、それを真に受ける人は誰もいないとハリスは言うのです。

彼女の印象では、社会化研究者たちは子どもから親への影響は存在しますが、そのような影響は他人のデータ上の話で自分の研究には無関係だと信じているようだと評しています。彼らは自分たちのあいまいな研究結果を、かつて一度もその真実性が疑われたことすらない子育て神話に基づいて解釈していると言うのです。社会化研究は、親が子に与えた環境は子どもの行動様式と性格に一生影響を及ぼしつづけるという仮説を立証することを目的としていたのではありません。彼らにとって、その仮説は立証するようなものではなく、既定事実だったのです。

ハリスは、自分の役目は、子育て神話を問いなおすことだと言っています。今までブログで紹介した彼女の考え方や、指摘したことは、子育て神話を支えてきた根拠自体の間違いをいくつか示しました。私たちが当たり前だと思っていること、他人の言うことをそのまま信じてしまっていることが、実は刷り込みによるものであったり、ある仮設に惑わされていたことに気が付きます。次に、彼女は、この子育て神話への反論材料について、様々な観点から紹介しています。

環境の作用” への2件のコメント

  1. 子育て神話を問い直すことによってこれまでの子育て観が改められる、そういった認識をもっていましたが、それよりも、子育てや保育の真実に近付くといった方が近いように思えてきました。その結果、これまでの子育て観や子ども観というものが、肯定されることもあれば否定されることもあるのでしょう。また、どちらでもない新しい見解に触れる機会となることもあるでしょう。どちらにしても時代の先端にいる子どもたちを時代の最前線の見地から見守る必要があることは確かで、こと保育者はその更新もまた仕事の一つであるのかもわかりません。

  2. 〝子育て神話を問いなおすこと〟がハリス氏の役目だと言っていました。よく自分たちのような保育をしている園を見学に来られた方が「新しいことをしている」と言われているのを聞きますが、そうではなく、ハリス氏が言っておられるように「問い直している」という方がしっくりというのではないかと思いました。そして、新しいことをしようとしているのではなく、進化や歴史などから良いところを取り入れていくような、なぜ、どんななどの根拠をそこから得るようなことであるのだと改めて感じました。

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