安定した愛着

トンプソンたちは、乳児の泣きの進化的機能についてまた異なる理論を呈示し、乳児の苦痛の泣きは呼吸器の緊急事態の症状と似ており、親の注意をひきつけ、栄養を摂取するための乳児の一種の偽装であるという仮説を立てました。この仮説を支持する結果が出たものの、次のようにも報告しています。3分間のセッションの過程で、乳児の苦痛が和らいできたと大人が判断することがあり、それにより結果の解釈は複雑になるというのです。トンプソンたちによる「偽装」仮説は興味深く、実証的な検証が必要です。しかし、どのようにして大人、特に親が乳児の泣きや、泣きと苦痛との関連や、泣きの質を解釈し、そういった泣きに対してどのような応答をするのかということについては今後の研究にゆだねられているとビョークランドは言っています。

極端に剥奪された乳児以外は皆、母親への愛着をもつようになりますが、その愛着の質はそれぞれの乳児で異なります。ボウルビーは、最も適応的な愛着戦略は、乳児が母親を「安全基地」として利用することを学び、比較的安全な身の周りの環境を探索するものであると主張しています。このパターンから逸脱した愛着タイルをもつ乳児は、古代の環境では生き残る可能性が低く、現代社会においては心理的不適応を起こすと主張しました。メアリー・エインズワーとその支持者たちは、ボウルビーの主張の真実性を立証するために幅広い研究を行ったそうです。有名なストレンジ・シチュエ―ション法、つまり、新奇な環境に乳児をおいて養育者が退出し、戻って来たときの反応パターンから乳児の愛着分類を判定する方法を用いて、アメリカの乳児のおよそ3分の2 は安定した愛着に分類され、残りの乳児は、3つの不安定な愛着型、すなわち、回避型、抵抗・アンビバレント型、無秩序・無方向型のどれかに該当しました。

安定した愛着をもつ乳児の母親、あるいは他の養育者は乳児に随伴的に応答し、乳児の身体的、社会的欲求の合図に応答的である傾向が高かったそうです。縦断的研究によっても、乳児期や歩行期に安定した愛着をもつとされた子どもや青年は、不安定な愛着をもつ乳児より、よりよい社会的、認知的機能をもつと報告されています。これらの比較的強固なパターンから、多くがボウルビーの主張と一致した結論に至っています。つまり、安定した愛着は最も適応的なスタイルであり、不安定な愛着は適応不足や精神病理を予測するということです。

もっと最近、愛着システムは乳児の生存を促すことに加えて、個体がその後の環境に適応するために進化してきたという説明がなされているそうです。この説によれば、さまざまな型の愛着は、たとえば親の投資量といった子どもの局所環境の生態学的条件に応じて発達すると考えられています。さらに、愛着分類は現代の環境に適応したものでなくてはならず、時間を経て生態学的条件が変化すれば、愛着分類も変わってくるはずです。この最後の論点を支持する証拠として、高ストレス、低収入の家庭の乳児はあまりストレスのない家庭の乳児と比べて、愛着の分類が6ヶ月以上安定しないという知見があるそうです。同様の傾向が乳児期から青年期にわたる愛着の安定性においても見出され、中流階級のサンプルでは愛着は安定していますが、ハイリスクのサンプルでは安定していないということがわかりました。