他者への指向性

強く性差が現れる社会的相互作用のひとつに、女性の方が他者への志向性が高いことがあげられますが、この違いは乳児期から見出されるようです。たとえば、乳児期の女児は誕生直後から、男児よりも頻繁に顔や声のする方へ向くと言われています。乳児期や歩行期の女児は男児よりも共感的であり、他者の苦痛に反応を示すこともわかっています。たとえば、ザーン=ワクスラーたちは、 12ヶ月児と20ヶ月児の、他者の悲しみに対する反応を調べたそうです。それによると、女児は男児よりも悲しんでいる者をなぐさめたり、悲しんでいることについての情報を求めたりすること、たとえば、「どうしたの?」と聞くようなことが多かったそうです。また、女児は男児よりも、悲しげな表情を見せたり、相手を心配しているような共感的なことばかけやしぐさをしたりしましたが、男児は他者の悲しみに対して反応を示さない傾向が強かったそうです。

社会的相互作用に関するこういった基本的要素は、ヒト以外の多くの霊長類でも見られるようです。笑顔や遊びの表情はサルや類人猿にもあり、協力的、遊び的な働きかけであることを伝えるために用いられます。同様に、パターン化されたやり取りが遊びのかたちで、多くの哺乳類の社会的相互作用にも見られるそうです。たとえば、ネズミやハムスターの社会的な遊びは、相互の交代や同型の運動ルーチンが特徴的だそうです。

葛藤行動も乳児期に見られます。表情で表す怒りは乳児期に現れ、文化的な均一性があり、生物学的な基礎があることが示唆されています。4ヶ月までに乳児は確実に怒りを表出し、そうすることで社会的なコミュニケーションを行います。

1歳の間に、怒りや攻撃性はまずは養育者に、次に仲間に向けられます。母親との葛藤も進化論から説明できると言います。進化論によると、長期間乳児を世話することに対する母親のコストの懸念と、乳児が継続的な保護を求めることとの間で葛藤が生じるからだと言うのです。怒りの表出は個人の気質の違いに左右されるものの、ある研究では、歩行期の子どもは家庭で母親が見ている時間全体のうち平均7 %の時間、怒りを表出したそうです。自分と多いですね。平均でもこんなにあることを多くの母親が知ると少し安心するかもしれませんね。

一方、仲間に向けられた攻撃性は0歳代の終わりに見られ始め、それも、たいていは物をめぐる争いの状況で生じます。たしかに、歩行期の子ども同士の相互作用の大部分は葛藤的ですが、それ自体、攻撃的なものではありません。またこの時期に幼児はことばでけんかしたり、向社会的行動によっていざこざを解決したりするようになると言われています。

葛藤や攻撃性が資源をめぐる争いの状況でまず生じるのは、系統発生的な記録とたしかに一致しているそうです。先に簡単に説明したいくつかの要因、コストや相手の戦略、資源の価値といった要因次第で、攻撃行動は非常に効果的な戦略となったり、非効果的でコストのかかる戦略になったりします。また、歩行期の子どもが一般的に他児のおもちゃを欲しがるのは、必ずしも不適応と見なすべきではないと言います。ホーレーは、歩行期の子どもの限られた交渉能力を考えると、おもちゃを「取る」ことは資源を獲得する効果的な手段であり、「事実、世界に対する健全な主張的アプローチであり、結果的に、成長し生存していくための物質的報酬を得ることにつながるであろう」と指摘しています。もっと、このことを知っておく必要がありますね。大人のような略奪ではないのです。