進化によるメカニズム

2つ目の研究では、兄弟姉妹との性的関係に関する質問紙への回答者を求める広告を、トロントの大手新聞に出してボランティアを募りました。この手法により、全体のサンプル数は178名と小さくなりましたが、きょうだいとの性器性交の経験をもつ回答者数は54名と多かったそうです。性交の報告があった54例のうち、35例は射精を伴う膣性交、10例は射精を伴わない膣性交、9例は膣性交未遂だったそうです。また、性交渉以外の性的行為の報告もあったそうです。この2番目の研究結果も、最初の研究報告と同様であり、幼少期に別居をしたきょうだいは、別居経験のないきょうだいよりも性器性交を行う傾向が高く、「未成熟な」性的行為については、別居の有無の影響は見られなかったそうです。

ベヴックとシルヴァーマンは、彼らの知見が、ウェスターマーク効果の主要な解釈を修正する必要性を認めるものだと述べています。幼少期から一緒に暮らすことによって、生殖的な性行動、たとえば、性交などの減少にはつながりますが、性交渉以外の性行動、たとえば、愛撫や露出などは必ずしも減少しないのです。さらに、ウルフの説と一致する仮説として、近親婚の回避効果に対する敏感期は3歳までであると指摘しているそうです。

ベヴックとシルヴァーマンの調査では、回答者の約3分の1がきょうだいと性器性交を行っていたそうですが、もちろんこの高い値は一般的な母集団の近親婚の割合を表すものではありません。ただ、子ども期以降のきょうだい間の性的関係の発生率が、「成熟した」「未成熟な」共に0よりは多いことから、同居きょうだい間の近親婚回避効果は完全なものではないと考えられるとビョークランドは言います。

幼少期からの同居と「なじみ」がウェスターマーク効果の最近接的な原因であると指摘するだけでは、近親婚回避の生物学的メアニズムや心理的メカニズは明らかになりなりません。同居となじみの何が、きょうだいの性的関心を減少させているのでしょうか?最近の研究では、嗅覚的な手がかりが、幼少期からの同居者との性的関係に対する嫌悪を生じさせるメッセージを運んでいることが示唆されているそうです。たとえば、動物研究では、免疫系、特に、主要組織適合性複合体(MHC)がもつ特徴の違いが、嗅覚的手がかりを通して感知されることが示されているそうです。動物は、MHCの遺伝子型が自身と異なる異性を交配相手として好む傾向があり、その差を匂いで感知しているのだそうです。それは、先に述べた免疫系に多様性があることで、寄生虫への抵抗性が高くなることを思い出します。同様に、ヒトの女性も、ゲノムのMHC 領域が異なる男性の匂いを好むという証拠が得られているそうです。

また、 411組の隔絶的な生活をし、固有の文化を維持しているキリスト教の宗派集団であるフッター派の夫婦を対象とした研究では、自身とはMHCの型が異なる人と結婚している傾向があることが報告されているそうです。シュナイダーとヘンドリックスは、子どもは同居者の臭いに対する性的嫌悪を発達させること、そして、この嫌悪、あるいは、異なる臭いをもつ人に対する選好性の発達には敏感期があると主張しているそうです。近親婚回避を引き起こす最近接な要因や、近親婚回避が生じる条件や生じない条件を整理するためには、さらにさまざまなレベルでの研究が必要だとビョークランドは言います。しかし、進化によるメカニズムが、環境要因や発達的制約と相互作用することで、一般に適応的な行動が生成されているのは明らかなようです。