社会的サポート

乳児の状態の他に、母親の投資に差を生じさせている要因として、母親自身と密接に結びついたものがいくつか考えられると言います。そのひとつが、女性の繁殖をめぐる状況に関連するものです。若い、繁殖力のある女性は、妊娠可能な期間をこれから先に長く期待できます。そのため、望んでいなかった乳児に最低限の投資しかしなくても、たいした問題にはならないのです。状況が改善すれば、生存可能な子どもを産む機会があると考えられるからです。妊娠可能な時期が残り少なくなってくると、子どもを放棄することに伴う代償が大きくなります。そのため、若いときには投資対象の乳児を厳しく選択し、繁殖期の終わりが近づくと子どもを選別せず、すぐ投資をするような淘汰圧が、母親に働いたと考えられると言います。

アメリカ合衆国において子どもの虐待を予測する主要因子のひとつが、母親の年齢だそうです。年齢の若い母親ほど、子どものネグレクトや虐待を行う傾向が高いのです。さらに、母親の年齢は、嬰児殺しの強力な予測因子でもあるそうです。ディリーとウイルソンのカナダの殺人率( 1974 ~ 1983年)に関するデータでは、10代の母親が乳児を殺す可能性は、20代の母親の4倍以上であったそうです。たしかに、若い母親は情緒的に未成熟であり、社会的サポートが乏しいといった要因も、この結果に関与していると考えられますが、進化論の予測するパターンでもあるとビョークランドは見ています。伝統文化社会でもこの傾向を支持するデータが得られていると言います。ボリヴィアとパラグアイの国境地帯に住む遊牧民であるアヨレオ族では、子どもに欠陥があると判断された場合、あるいは経済的な見通しが悪い場合には、子殺しが頻繁に行われているそうです。また、こうした状況下では、若い女性ほど乳児を殺す傾向が高いことを、パゴスとマッカーシーは見出しているそうです。カナダのデータと同様に、母親が10代の場合に、乳児が殺される危険性が最も高いのです。

子どもに対する投資を決定する際に母親が用いるもうひとつの手がかりが、母親が得られる社会的サポートの量だそうです。コミュニティからのサポート、特に、主に母親の血縁者で構成される父母以外の養育者の存在が、要因のひとっと考えられると言います。しかし、おそらくもっと重要なのは、配偶者に期待できる支援の量なのです。配偶者がいない場合は、手に入る資源が限られるため、子どもが生存し繁栄できる可能性も狭まると考えられています。包括適応度の観点から厳密に考えると、母親ひとりで子どもを育てるのは、経済的資源が豊富にある場合など、条件が整っている場合のみにすべきであるとビョークランドはいます。母親に適切な支援や資源がなければ、子どもへの親の投資量の予測は低くなります。このために、母親の婚姻状況は、母親が資源を入手できる可能性を知る手がかりとなります。つまり、未婚女性は平均的に、得られる社会的サポートが少なく、手に入る資源も限られていると予測されると言うのです。

極端な事例の子殺しに関する統計をこの主張を支持する証拠として捉えることができると言うのです。子殺しをした女性が未婚の母親である確率は、チャンスレベルで期待される数よりもはるかに高いと言います。さらに、この効果は、未婚の母親は、既婚の母親よりも若い傾向があるために、母親の年齢を考慮しても減少しないようです。