祖父母による投資

父親以外の人物で、母親や子どもの支援をすすんで行う可能性が最も高いのは、子どもの祖父母です。これまで何人かの理論家が、祖父母(特に祖母)による孫への投資が、ヒトの長寿の一因となっていると提唱しています。つまり、おそらく、長寿の人は、自身は生殖年齢を過ぎていても、孫の生存を促進すると考えられているのです。これは、私も一時期講演の中で取り上げていました。人類は、他の霊長類と違う人生の中の時期で、1つは生殖機能を持ったのに生殖をおこなわない青年期、もう一つが、生殖機能が終わっても生きている老年期があります。その二つの時期についての仮説を紹介しました。ビョークランドは、どのような仮説を紹介しているでしょうか?

彼は、この説は、子どもを産むことだけではなく、遠い血縁者(たとえば、孫)の生存の可能性を高めることでも個体の繁殖の目的はかなうとする、ハミルトンの包括適応度の概念と一致するものであると言っています。女性の繁殖能力は全体的な生理機能よりも大幅に早く低下するため、この議論は特に女性と密接に関連しています。ほとんどの女性の寿命は、伝統社会においても、最後の出産から20年以上長いのです。

「祖母仮説」を支持する証拠として、繁殖に伴う危険要因と母親の年齢との関連性が示されているようです。若い女性と比較して、年配の女性が妊娠した場合には、自然流産、低体重出生児、死産となる可能性が高く、また、母親の死亡の可能性も高いのです。さらに、女性の寿命は長いことから、一般に、配偶者の死後も繁殖能力が残っている女性が新しい配偶者を迎えると、そのことによって、今いる子どもの生活が危険にさらされ、亡くなった配偶者の家族から利益が得られなくなることもあります。また、伝統社会では、閉経後の女性は、わずかな資源を幼い乳児に配分する必要がないため、年上の子どもや孫に多くの時間と資源を投資することができ、年上の子どもや孫の生存を脅かさなくてもよくなります。

こうした特徴から、年配の女性は、自身が子どもを産むよりも、孫の養育の支援をした方が繁殖上の利益が大きい、と認識するようになったのだろうとビョークランドは考えています。ベルべットモンキー、ヒヒ、ライオンも、祖母の存在による利益を得ていることを示す証拠があるそうです。また、伝統社会に生きるヒトを対象とした研究からも、祖母仮説を支持する証拠が得られているそうです。たとえば、閉経後の女性が孫の成功に貢献していることを示す証拠が、アフリカの地溝帯に住む狩猟採集をする少数民族であるハツツア族の観察から得られているそうです。ホークスらは、年配の女性による食料の採取が、離乳はしたが、大人と同じ食べ物をまだ食べられない幼児の栄養に、特に重要であることを指摘しているそうです。ホークスたちの報告では、ハツツア族の家族では、授乳中の子どもがいない場合は、子どもの栄養状態は母親の採取努力と関連があり、母親の食料獲得量が多いほど、子どもは健康でした。

しかし、母親が授乳をしている家族では、離乳した子どもの栄養状態は、祖母の採取努力と関連していたそうです。このようなパターンがヒト科の祖先の集団でも見られたとすれば、子どもを早く離乳させて、母親は再び妊娠できるようになり、繁殖可能性は高まったと考えられます。離乳した子どもに対する祖母からのサポートがなければ、授乳をさらに数年続ける可能性が高く、ヒトの女性が生涯に持てる子どもの数は減ることになります。

祖父母による投資” への9件のコメント

  1. 子どもを産み、育てるという人類の仕組みが、パズルを当てはめるかのように、日々の更新の中で紹介されています。ピース毎であったものが繋がる瞬間が、最後の段落に詰められているようで、先生の過去のブログもそうですが、起承転結という言葉でおさまるのかどうか、先生の文体は読み手をこうも見事に先生の世界へ誘うのですね。
    じーじ、ばーちゃん、と息子たちが慕う祖父母の存在は掛け替えのないものです。未熟な夫婦の未熟さに目を瞑りながら、温かく見守っていただいていることを実感しています。この感謝は孫の笑顔で十分なのだそうですが、それを知る度、もっと成長しよう、もっと親孝行しようと思うのです。

  2. ヒトとは補い合い、助け合っていく存在なのだということがわかります。「祖母仮説」なるあまり馴染みのない術語が気になりながら、確かに祖母の存在は子や孫にとって大きいのだろうと改めて気づくのです。私の母は孫であるわが子がよほど可愛いようです。子である私には用がある時にだけ連絡してきますが、孫にはやれ誕生日だ、やれお年玉だ、やれ〇〇だと、我ながら感心するほどの孫尽くし。まぁ、それが楽しみならそれでよいでしょう、と結構冷めた私。「祖母からのサポート」このことが殊の外重要なようです。私たち親子と祖母は遠く離れて暮らしています。日常的なサポートは受けられません。物理的な距離が近い場合はそのサポートを十分に受けられる可能性がありますね。ある種、祖母は祖母なりにできる役割を果たしているのでしょう。ヒトの関係というものは単に生物的な祖母・子・孫という関係を超えて、何かそれぞれがそれぞれの生存のために相互補完関係にある、そんな気がしました。そしてそうすることでヒトの生存を図っていこうとする戦略を見て取ることができるような気がします。

  3. 祖母との思い出が蘇ってきました。母方の祖母はハンデを持ちながらも私たち孫のために本当にいろいろなことをしてくれましたし、私たちのことを大切に思ってくれているということを祖母からは感じました。「年配の女性は、自身が子どもを産むよりも、孫の養育の支援をした方が繁殖上の利益が大きい、と認識するようになったのだろうと」ということでした。子どもたちが祖父母の家に行く時、行った時に、よく耳にするのが「おばあちゃんの家にいく」というような言い方です。私自身もそう使っていましたが、いつも「おじいちゃんの家でもあるのにな」と思っていましたが、それだけ、祖母の影響といいますか、存在の与えるものが大きいということでもあるのでしょうか。

  4. 様々な特徴から「年配の女性は、自身が子どもを産むよりも、孫の養育の支援をした方が繁殖上の利益が大きい、と認識するようになったのだろう」とありました。孫への愛情は我が子への愛情とはまた違うものと聞いたことがあり、孫への養育の支援がその愛情から来るものと先行して捉えていましたが、そもそもには「孫の養育の支援をした方が繁殖上の利益が大きい」という部分が大きな要因としてあったことを知ると、人類にとって、子育てにとってなどの様々な利益は連続、連動しているような印象を受けました。一時保育の申し込み理由として、「仕事の際に祖父母の住まいが遠くて子どもを預けられないため」という理由が少なくありません。核家族化が進行している現代では、なかなか「祖母仮説」が成り立たなくなってきてしまっているようにも思えてしまいます。

  5. 祖父母にとっては「目に入れても痛くない」と例えられるほどに愛情を注ぐ孫という存在があり、その「目に入れても痛くない」要因として〝孫の養育の支援をした方が繁殖上の利益が大きい〟というのが進化の過程から挙げられています。孫は息子たちとは違い特別にかわいいというのが自分の親たちの意見です。〝祖母仮説〟とありますが、孫が特別かわいくなるように、あらかじめプログラムされているかのような印象を受けます。それは長い人類の歴史の中で、淘汰されていったものでもあるのかもしれませんね。

  6. “年配の女性は、自身が子どもを産むよりも、孫の養育の支援をした方が繁殖上の利益が大きい、と認識するようになったのだろう”このように考えると孫へ対して甘やかすというような祖父母の姿は、当てはまってしまいます。むしろ、そうすることが祖父母にとって繁栄上の利益、また、自身の生存率をあげる要因になっているのだということを感じ取っているのですね。そういったことを考えると、近年、増加している核家族化は、子どもにとってのみならず、親を含め、祖父母の生存率、資源を投資することによって得られるものが少なくなっているように考えられました。

  7. 祖父母の存在はとても大きいですね。私たち夫婦は実家が遠いため祖父母の支援を受けることができません。正直、近くに祖父母がいる子育て世代を羨ましく思うことがあります。とは言え、少し前に藤森先生がこんな事を言ってました「祖父母が近くにいない家庭は父親がそういう役割になればいいのでは?」と確かに私達夫婦は、ほぼ定時で退勤させてもらってます。そのお陰で家事も分担することが可能です。また時には職場の仲間もいます。チーム保育ではありませんが、出来ない部分をできる人が補ってくれる。そんな環境が近くにあることに本当に感謝しています・・・。なんだかブログのな用途コメントがずれてしまいましたが、ブログを読みながらそんな感想を抱きました。

  8. ブログから祖父母の存在の大切を感じます。こうした存在のお陰で人が繁殖を可能としているのですね。「年配の女性は、自身が子どもを産むよりも、孫の養育の支援をした方が繁殖上の利益が大きい」と生きてきた過程から見出してきたということもすごいことだなと改めて思うところです。自身の祖母を思い返すと様々な思い出があります。兄弟で祖母のところへ行き、何泊かして過ごすというのも少なかったです。第二の親といいますか、楽しく暖かさを感じていました。今やボケが進んでいる状況は止む終えませんが、大事にしなければなとふと思います。

  9. 子育てにおいて祖父母の存在というのはとても大きいのですね。そして、これまでの藤森先生の講演にもあったように高齢者の社会での役割というのは孫の世代の子育てにこそ役割があるのかもしれません。確かに今のような核家族が主流ではなく、大家族であった場合孫の世話はおじいちゃんおばあちゃんの役割だったようにも思います。さらに「離乳した子どもに対する祖母からのサポートがなければ、授乳をさらに数年続ける可能性が高く、ヒトの女性が生涯に持てる子どもの数は減ることになります」とあるようにサポートがあるからこそ、複数の子どもが持てる可能性が広がるという風に見ると、昨今の少子社会は核家族化というものが生物学的に見ても影響があることが見えてくるように思います。

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