生存率

これまで述べてきたように、ヒトの男性は他の哺乳類よりも子どもの世話に多くを向けており、父親の投資量は子どもの成功と関連があるようです。しかし、霊長類のオスのなかで、最もよく養育に参加しているのはヒトではないそうです。他の複数の種で、オスがヒトと同程度の時間を子どもとの相互作用にあてており、2種類の新世界ザル(ヨザルやティティモンキー)は、生まれたときからオスが子どもを抱きかかえ、実際、メスよりも長く子どもとの接触時間をもっているそうです。

生物学者ジョン・オルマンたちは、いくつかの霊長類について、メスとオスの生存率を、その種に特異的なオスによる養育の量と関連づけて比較しました。そのデータによると、数値が大きいほどメスの方が、寿命が長く、比率が1.0の場合にはメスとオスの生存率が同等であり、また、1.0未満の場合はオスの方が寿命が長いことを示しています。ここからわかるように、オスのメスに対する生存比は、父親が養育に参加する程度と相関して増加しています。現代の工業化社会で、男性よりも女性の方が生存率がわずかに高いことはよく知られていますが、この傾向はスウェーデンの1780年の歴史資料や、伝統社会でも認められているそうです。

オルマンは、子どもの養育に参加するオスと参加しないオスの違いとして、危険回避の傾向があると推測しているそうです。オスが子どもの養育の大部分を担う種では、子育て中のオスは危険回避的であると考えられます。子どもの生存が養育者の生存に強く依存している場合には、自然淘汰は危険を回避するオスに有利に働くだろうとビョークランドは考えます。一方子どもの養育に関わらないオスは、危険をおかすことが社会的地位や配偶機会を高めることにつながることが多いため、危険回避の傾向は低いと考えられます。同様に、子どもの生存が母親による養育に大きく依存しているため、一般にメスは危険回避的戦略を進化させており、自身の命を守ることを重要視すると考えられています。

オルマンたちのヒトに関するデータでは、男性より女性の方が生存率が高くなる年齢時期が2回あることが示されています。最初のピークは25歳頃に生じ、少し小さい2回目のピークが生殖年齢の終了後に見られるそうです。このパターンは、現代の先進工業国でも、スウェーデンの歴史データでも認められているそうです。また、同様の傾向は、チンパンジーやゴリラの生活環でもはっきりと認められるそうです。オルマンによると、成人期初期に見られるピークは、女性の子育ての責任が最も大きく、男性の危険志向が最も高い時期にあたります。こうした危険をおかす傾向が高いことが、この時期の死亡率の性差を生む主な原囚とオルマンは考えているそうです。

老齢期初期に生じる2番目のピークは、多くの女性は孫が生まれる時期にあたり、男性は脳卒中、心臓病や癌の発症の危険性が高まる年代です。女性の生存率が高いこの性差は、男性は高いストレスを受け高血圧や血管疾患が生じることによる長期的効果に起因するものと考えられています。これと関連するのが、二次性徴の発達を促進し、男性の地位をめぐる競争や攻撃性に関与するホルモンであるテストステロンにさらされることで、免疫メカ=ズムの効果が抑制されるとする説です。つまり、青年期の成功に関連する特徴が、後に健康障害の一因ともなりうるのだというのです。

生存率” への9件のコメント

  1. 「青年期の成功に関連する特徴が、後に健康障害の一因ともなりうるのだというのです。」何とも興味深いデータですね。「女性の生存率が高くなる年齢時期」「最初のピークは25歳頃」それぞれの25歳頃がありますね。振り返る人もいればこれからの人もいます。青年期とはよく言ったもので、やはり青く、若い時期なのでしょう。危険を顧みずに突き進むその心情はとても理解できます。それが後に健康障害の一因になるというのも頷けることで、危険に対して同じような生き様を提示するのではなく、年相応に、その圧へ対処法を身に付けていく必要を暗示しているかのようです。抗うよりもしなやかに、身のこなし、荒波に対する舵取りに磨きをかけていくということなのでしょうか。

  2. 「生存率」というテーマの今回のブログ。私には「平均寿命」ということが思い出されました。日本は女性の平均寿命が男性のそれを上回っています。しかも世界ナンバーワン級に。「一般にメスは危険回避的戦略を進化させており、自身の命を守ることを重要視すると考えられています。」このことを現在の日本は女性のみなさんに保障していると思います、いろいろな意味で。世界一平和な国であることを日本の女性の平均寿命の高さが示しているような気もします。一方「二次性徴の発達を促進し、男性の地位をめぐる競争や攻撃性に関与するホルモンであるテストステロンにさらされることで、免疫メカ=ズムの効果が抑制」されているのが「勝ち組負け組」脅威にさらされている日本男児の今かも。だとするなら結論は「青年期の成功に関連する特徴が、後に健康障害の一因ともなりうる」そして生存率、寿命を縮めることに繋がるのか?私は争い事が嫌いです。戦争は絶対に反対です。できるだけ危険を回避したいと思っています。特に家族を危険にさらすことは極力避けたい。母親という存在に近づいて行きつつ、しかし見守るスタンスは崩さない。これからの世界を生きる男の有り様とはこうしたことかと気づいたところです。長生きできるということは健康で安全、平和な証拠です。何はともあれ、このことを忘れないようにしましょう。

  3. 全ての種の中で人類が最も父親の投資量が高いのではないかと感じていましたが、「霊長類のオスのなかで、最もよく養育に参加しているのはヒトではない」のですね。また「オスのメスに対する生存比は、父親が養育に参加する程度と相関して増加する」ことも興味深いです。父親の投資量が多いことにはメリットしかありませんね。これを世の男性がより多く知って欲しいことですね。そして、危険回避の傾向によって子育てへの参加傾向もわかるのですね。これは人においても同様に言えることだと思えます。子育てへの参加が父親の不義を減らすことともつながりそうです。また「男性より女性の方が生存率が高くなる年齢時期が2回ある」とありました。逆にその2回以外は男性の方が生存率が高くなっているということなのかなと気になりました。

  4. 〝オスのメスに対する生存比は、父親が養育に参加する程度と相関して増加〟しているんですね。父親が養育に積極的に参加することはメリットばかりある印象を持ちます。このことを世の中の男性に知ってほしいですね。
    それだけ子どもと接する、関わることは男性にとっても女性にとってもメリットがあるということになるんだと思います。子育ては確かに大変な面もありますが、このような研究の結果からみても子どもも大人も相互に育ちあい学びあっているのだと感じました。

  5. 「霊長類のオスのなかで、最もよく養育に参加しているのはヒトではないそうです」というのは驚きました。勝手なイメージで、霊長類のオスの中では一番ヒトが育児参加しているものだと思っていました。最後の「男性の地位をめぐる競争や攻撃性に関与するホルモンであるテストステロンにさらされることで、免疫メカニズムの効果が抑制されるとする説です。つまり、青年期の成功に関連する特徴が、後に健康障害の一因ともなりうるのだというのです」という言葉が印象的でした。はっきりと理解はしていないのですが、若い時期に競争や攻撃という争いのような状況に身を置くことで、そのストレスが蓄積され、老年期に健康障害としてあらわれてくるということなのでしょうか。現代の社会を想像しますとあらゆる集団の中でこのような争いがあるように思います。人が集まるとある程度は仕方ないのかもしれませんが、なるべきなら争いのない集団に身を置きたいですし、私自身もそのような環境を作る担い手になりたいなと思います。

  6. “子どもの生存が養育者の生存に強く依存している場合には、自然淘汰は危険を回避するオスに有利に働くだろう”とありました。続く文章を読んでいると、子どもを守るために、父親は危険へ対する警戒心が強まったことが考えられ、その回避するための考え方に脳が反応しているように思えます。よく、昔は悪いことをしていた人が、子どもができて丸くなったのようなことを聞いたことがありますが、関係性がありそうですね。また、”男性より女性の方が生存率が高くなる年齢時期が2回ある”について、この子ども、孫といった存在が生存率をあげる要因になっていること、また、男性は、若い頃のストレス、また、”テストステロンにさらされることで、免疫メカ=ズムの効果が抑制される”ことにより、生存率が低下し、のちの健康障害の一因にもなっているのですね。男性の子育てへの関与は、こういった面にも効果を発揮することを考えます。

  7. 「オスが子どもの養育の大部分を担う種では、子育て中のオスは危険回避的であると考えられます」とあり、その理由として「 子どもの生存が養育者の生存に強く依存している場合には、自然淘汰は危険を回避するオスに有利に働く」のですね。それは子育てを多く担うことで守らなければならないという意識が高く危険回避をすることで自分を守る=子どもを守るということに直結するということなのですかね。一方子育てをそこまで担っていないと危険回避的ではないというのはなんだか納得できる思いでした。

  8. 家庭を持つことで男性の生存率が高くなるというのは、やはり守るべきものがあると精神的には強くなりますが、自分の命に関わることに関しては慎重になり、危険回避の傾向があるのでしょうね。養育の量でも寿命の長さに差があるように、自分の子どもと接する事で、寿命が変わるのは面白い結果です。今の自分自身の姿を照らしわせてみてもブログの内容とリンクしますが、やはり家庭を持つということは自分の環境はもちろん、精神的にも人生も大きく変化していくのですね。

  9. 子どもの養育の参加や青年期の成功に関連して、生存率も関わってくるのですね。様々な観点から見ても、人の子育てということが生物が生きていくための最優先事項であり、そこに合わせて、人や生物の進化も行われているということがわかります。それは人間社会の様相が変わったとしてもそのメカニズムからは逃れることができないのかもしれません。養育をしないオスは養育するオスよりも危険回避能力が低いというのも、生物の観点から見ると当然のように感じます。また、女性の生存率が上がるのが子どもや孫が生まれる時期に見られるというのも面白いですね。そして、男性のその時期の免疫メカニズムにも合わせて進化していくというのも驚きです。まだまだ、こういった当たり前の人の営みが実は遺伝子や進化の過程の中で発展していることも多くありそうですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です