唯一最大

社会的認知について考察するときに、どうしても欠かせないのが「心の理論」です。この研究については、何度もブログで紹介しました。では、この心の理論について、進化発達心理学からみると、ビョークランドはどう考えているでしょうか?まず、こう述べています。「おそらく、ヒトの社会的相互作用の基盤にある唯一最大の基礎的な能力は、他者の知識や欲求が自身のものとは異なることの理解である。」と言います。さらに、彼は「この知識を表す概念として使われてきたのが“心の理論”であると言っているのですそれはおそらく1990年代の発達心理学研究における唯一最大のトピックと言えよう。」と評しています。

心の理論とは、人やその人の行動を、信念、欲求、意図といった心に関連する構成概念で解釈する傾向のことであるとも言います。私たちヒトが」行う他者との相互作用は、ウェルマンの言う、「信念―欲求推論」にもとづいていると言います。人は自分が知識や予測などの信念や、欲望や希望などの欲求にもとづいて行動していると理解しています。そして、他者の行動がその人の信念と欲求が自分とは異なることを理解しています。

心の信念―欲求理論を生まれた時から持っているわけではありませんが、ほとんどの子どもが4歳までに大人と同じような心に関する理解を発達させると考えています。心の理論は、誤信念課題の成績に最もよく表れます。それの研究実験は、何度も紹介していますが、たとえば、広く用いられている誤信念課題では、子どもに箱の中のようなある場所にごちそうが隠されるところを見せます。ごちそうを探すときにはもう一人別の人物が在室しています。その後その人物が部屋から出ていくと、ごちそうを別の場所に移動します。そこで子どもに、この人物が戻ってきたら、どこを探すと思うかと尋ねます。4歳児のほとんどがこの問題を解くことができ、戻ってきた人物は最初にごちそうが隠してあった場所を探すと答えたそうです。しかし、3歳以下の子どもは、新しい隠し場所を探すと答えることが多く、戻ってきた人物の知識が、自身の知識とは異なることを理解していないと考えられるのです。

心の理論は、日々の社会的交換に不可欠だとビョークランドは言います。たとえば、ある研究では 、子どもが「いじわるおさるさん」とゲームをしました。子どもたちに、魅力度に差のあるシールをいくつか示しました。「いじわるおさるさん」は、実験者が操る指人形で、子どもたちに本当に欲しいシールはどれで、あまり欲しくないシールはどれかを尋ねます。そして、いじわるおさるさんは子どもが好きと答えたシールを選び取り、欲しくないといったシールを残します。4歳児はすぐにゲームを理解し、いじわるおさるさんに本当の気持ちとは反対の答えをするようになるそうです。しかし、3歳児はこの課題の社会的ダイナミックを理解することができず、常に欲しいシールを指さし、欲しくない賞品をもらい続けたそうです。3歳児の行動は、いじわるおさるさんの心には、自身と異なる目的があることをまったく理解していないかのようであったと言います。

進化心理学の領域固有性の考え方と同じく、心の理論も就学前の数年で発達する専門性の高いモジュールが集まって成立していると、何人かの研究者が提唱しているそうです。

唯一最大” への10件のコメント

  1. 「心の理論」、臥竜塾ブログで何度も取り上げてきましたね。IQに対するEQであるとか、認知能力に対する非認知能力あるとか、ヒトの関係性を論じる時のキーワードと言ってもいいでしょう。1990年代発達心理学研究の「唯一最大のトピック」。その頃から30年。研究の成果は注目に値することが多く、かつて信じていたことが今や信じるに値しない、ということも出てきています。赤ちゃんのタブララサ信仰も棄信しなければならなくなるような研究結果が出ていることは臥竜塾ブログの読者である私たちにはもはや自明のことですね。得られた新しい知見を基にして私たち乳幼児保育教育に携わる者は仕事をしていく必要がありますね。今回のブログの後半で紹介されている誤信念課題に関する3歳児と4歳児の反応の相違に反応したくなりました。この頃ヒトは脱皮していわゆる3歳からいわゆる4歳に変身しているのだろうと思われるのです。おおむねこうしたことが言えるような気がします。今後の研究成果が待ち遠しいですね。

  2. 唯一最大の基礎的な能力が「他者の知識や欲求が自身のものとは異なることの理解である」とあり、とても印象的でした。この力が基礎的であるはずなのに、そのことを理解していないような人の姿というのが現代ではどうしても目立ってしまいますね。私自身もあまり大きな声では言えないのですが、他者の欲求が自分とは異なるものであるということを理解することが、集団の中で生きる私たちにとっては基礎であり、重要な力であるというのは考えさせられます。若者だけではなく、お年寄りまでもそうですが、(そして私も偉そうに言えませんが)どうして自分のことしか考えていないのだろうと思ってしまうような光景を見てしまうとやはり悲しくなります。心の理論が発達するために私たちは何ができるのか、そして、自分たち自身もその能力をさらに伸ばしていけるように行動していきたいです。

  3. 「ヒトの社会的相互作用の基盤にある唯一最大の基礎的な能力は、他者の知識や欲求が自身のものとは異なることの理解である」とあり、さらにこの知識を表す概念として使われてきたのが“心の理論”であるのですね。心の理論は、EQや非認知能力、誤信念課題としても取り上げていただくことがあるので自然と復習の機会にさせていただいていますし、子どもたちの心の理論の発達に一役買える関わりや環境を考えていきたいと思い返す機会にもさせていただいています。また、誤信念課題における4歳児と3歳児の違いには驚きました。この3歳児から4歳児になる時期が最も心の理論が発達する時期とも言えるのでしょうか。転機のようなものがこの時期にあるのか、それとも乳児のころから3歳まで心の理論の準備が行われていて、準備が整えば自ずと3歳から4歳までの間に形となって現れるとかだったりするのかなと考えたりしました。

  4.  「しかし、3歳児はこの課題の社会的ダイナミックを理解することができず、常に欲しいシールを指さし、欲しくない賞品をもらい続けたそうです。」とても興味深い研究結果ですね。そのくらいの年齢の子と例えばトランプのババ抜きをすると、手元が見えてしまうような持ち方をしたり、それは手の大きさがそうさせるのかもわかりませんが、ルールやタブーというのでしょうか、そういったものへの知識の実践よりも先行するものがあるように思えてきます。その子の心の発達段階、現段階が遊びの中から見えてくるようで、次に子どもたちとそういった遊びをする時に、また違った感覚でその遊びを見ることができそうです。

  5. 社会相互作用の唯一最大の基礎として〝他者の知識や欲求が自身のものとは異なることの理解である〟とあります。この力が基礎になっているということは、現代の社会において、この能力が欠けてきているということがいえるのかもしれませんね。そして、この能力は4歳児になると理解ができてくるというのが研究結果として挙げられているということで、なぜ4歳になるとそのような力がついてくるのかと考えてしまいます。人類の歴史の視点からみていくと読み解けるものなんでしょうか。そして、〝他者の知識や欲求が自身のものとは異なることの理解である〟という力が足りないであろう自分も含めての現代の人間のこれからのヒントにもなるのではないかと思いました。

  6. 心の理論を知る上での誤信念課題の成績から見ると、3歳児と4歳児との違いが印象的でした。3・4・5歳児の異年齢を行う時、多くの人が発達が異なる環境でこちらが言いたいことが伝わるのかという問いが生まれるのは、このような誤信念課題に見られる差が気になってしまうようにも思います。確かに、新年度が始まったばかりの時には、紙芝居や1日の活動を伝える時には配慮しなくてはとも思いましたが、その期間も短く、すぐに発達を遂げていくのであまり問題にはなりませんでしたし、4・5歳児のフォローがあることで別の力を得ていることを実感します。「他者の知識や欲求が自身のものとは異なることの理解」には、多くの発達の異なる環境下にこそ深まっていくことを感じました。

  7. 心の理論の内容について、以前のブログでも、具体的な話の中でも感じたことが、集団で生きることが私たち人類にとって重要なものであるいじょう、生き方の基礎となるものが心の理論である重要性を改めて感じます。自分と相手の感情や欲求などが、それぞれにあることを理解する、だからこそ、共感したりできるのだろうと考えることができます。「いじわるおさるさん」の研究でも見られるようななにを意図しているのかを理解することで相手の行動にどういった意味があるのかを判断することができる、考えてみるなかでも、社会性をもっていることで、社会にうまく順応していくためにもっとも必要な力だと思えます。社会的認知に重要な心の理論について、深めていきたいです。

  8. 3歳と4歳のでの違いというのは大きいことを実感します。実際に現場に入っていると納得がいきます。誤信念課題のような紙芝居を異年齢児で読むことで感想を聞くなるほどなと思うほどに違うのは「他者の行動がその人の信念と欲求が自分とは異なることを理解」といった発達の部分であることがわかります。この差を異年齢で過ごしている子どもたちは常に感じ上の子たちはそれらを理解した上で接しているようにも感じます。異年齢で過ごす意味がより深まります。この時の経験というのは大人になったときのどのように表出するのですかね。ヒトの理解…今だになかなか難しいです。

  9. 「他者の知識や欲求が自身のものとは異なることの理解」が唯一最大のトピックと書かれてあります。「心の理論」は確かにブログで何度も出てきていますが、それだけ大切な事だと伺えます。ちょうど長男が4歳になったばかりなので、実感が湧きますが、確かに「いじわるおさるさん」の実験をすると、まだ常に欲しいシールを選択しそうです(笑)相手の気持ち、考えを予測したり、共感したりする行為は当たり前のように行っていますが、こうして心の理論から子どもの発達と重ねてみると、素晴らしい能力だと思います。それと同時に、ヒトにしか出来ない貴重な能力をちゃんと身につける必要がありますね。

  10. 「心の理論」に関してはまだ、なかなか難しく考えてしまうところもありますが、3歳から4歳にかけての「誤信念課題」の変化はとても面白いですね。保育をしていても3歳と4歳の違いはやはり大きく違って見えてきます。「人は自分が知識や予測などの信念や、欲望や希望などの欲求に基づいて行動していると理解しています。そして、他者の行動がその人の信念と欲求が自分とは異なることを理解してます。」とあります。4歳児までにこういった発達が見られるというのはこの実験からも読み取れますね。こう考えると「思いやり」や「相手のことを考えて」と3歳児にいって理解させようとするのはあまり意味を持たないということがわかります。しかし、その中でやり取りの経験を通して、心の理論を養っていくと考えると子ども同士のかかわりは多く経験できる環境が必要であり、その価値観に触れる幅は広いほうがいいということがわかります。保育によっても様々な見方をしていく中でこういった経験の一つ一つを環境に生かしていかなければいけませんね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です