早期の損傷

言語を処理する脳領域がある左半球の早期の損傷は、言語機能の発達に影響を与えるのでしょうか?初期の研究では、2歳までに脳損傷を受けた場合、左半球の損傷も右半球の損傷も影響は変わりませんが、10歳までの間に損傷を受けた場合は、左半球の方が言語発達の問題につながりやすいと考えられていたそうです。しかし、その後の研究によって、生後早い時期から左半球の優位性が示され、早期であっても左半球に損傷を負った人が、右半球よりも、音韻課題や文法課題に問題を抱えやすいことが示されているそうです。一方で、ベイツ博士らは、脳損傷を抱えた子どもの言語発達を縦断的に検討し、どの脳領域であれ脳を損傷すると言語発達に問題を抱えること、そして、右半球に損傷を抱えた乳児の方が、左半球に損傷を抱えた乳児よりも、単語の理解に困難を示すことを示しているそうです。このように、結果は一貫していないそうです。

また、近年、左半球の言語野に損傷を抱えた子どもたちがいかに脳を再組織化し、言語処理を行なっているかについてfMRIで調べた研究があるそうです。言語損傷の研究では、一般的に左半球の言語野が早期に損傷した場合には脳内の再組織化が起こり、右半球のブローカ野に該当する領域が言語機能を担うという考えがありますが、その仮説を検証したそうです。提示された名詞に対して適切な動詞を答える課題では、左半球のブローカ野周辺に損傷を抱えた子ども5名のうち4名は、ブローカ野周辺の言語処理とは関係のない脳領域を活動させており、残りの1名は右半球のブローカ野に該当する領域を活動させたそうです。むしろ、左半球のブローカ野ではない領域に損傷を抱える子どもでは、右半球のブローカ野に該当する領域を活動させる傾向にあったそうです。これらの結果は、右半球のブローカ野に該当する領域が、言語機能を担うという説とは一致しないのです。一方で、同様の課題を与えた場合に、左半球に損傷を抱えた子どもは、右半球のブローカ野に該当する領域を活動させることを示した研究もあるそうです。

これらの結果を見ても、言語関連の脳領域損傷後の、単純な脳のパターンはないように思えるようだと森口は言います。さらに彼は、実際のところ、どの領域を発達の同時期に損傷し、どのような療育を受けるかによって、結果は異なってくるのではないかと言うのです。現時点では、敏感期があるとまでは言いきれませんが、発達早期の言語野の損傷であれば、脳内に再組織化が起こり、異なった脳領域で処理することもある、くらいは言えるのではないかと言うのです。

人間の行動に関する限り、臨界期はふさわしくなく、敏感期といったほうが適切ではないかと森口は言います。発達の特定の時期が、他の時期よりも重要であり、それはある経験をする最初の時期だということは間違いないのですが、あくまで視覚野言語などに限られており、早期教育論者が推進するような知能のような高次の認知機能については、科学的な検証は、あまりなされていないのが現状だそうです。

次に絶対音感についてです。これについては、私も講演でよく述べる例です。絶対音感とは、いろいろな意味があるようですが、ここでは、ある音を聞いただけで、他の音とは独立して、その音にラベリングできる能力のことを指します。

早期の損傷” への12件のコメント

  1.  「単純な脳のパターンはない」研究者の苦悩を想像しました。それはまるで絨毯の上で遊びなさいといくら言っても聞いてくれるわけもない子どもたちにその時間の間ずっと声をかけ続けることのようで、こちら側の意図、期待、そんなことを一蹴するかのようにその枠の外へ外へと出て行ってしまいますね。しかし、やはりその時は、こちら側が違うのだということに気付いて改善する、子どもたちはそもそもそんな狭いスペースにいられるわけもなく、環境を改善するのが保育者の仕事なのだと実践していくことが、即ち脳研究においてもの試行錯誤と、そこまでの違いはないかもわからないと感じてしまいました。脳の可能性、子どもの可能性の大きさを、これはこういうものだから、これはこう言われてきたことだからと古い固定観念でもって支配しようとした時、その発展は止まってしまうものなのかもわかりませんね。

  2. 「言語関連の脳領域損傷後の、単純な脳のパターンはないように思えるようだ」とありました。また、脳内に再組織化が起こり、異なった脳機能で処理することもあるのではないかということでした。なんだか、脳といっても一つの細胞ではなく、多様な人が集まった集団のように思えてきます。チームのあり方にも似ているのかもしれませんが、何かが起こった時に、それに対するマニュアル、パターンで動くのではなく、状況に応じてあらゆる方法で対応していけるのがいいチームだと思うのですが、まさにそんなチームのあり方と脳の組織とがダブって見えてしまいました。そして、同時にまだまだ脳に関しては分かっていないことが多いということも感じます。だからこそ、あまりイメージで教育を語ったりすることは危険なのかもしれませんね。

  3. 「結果は一貫していない」や「言語関連の脳領域損傷後の、単純な脳のパターンはない」など、脳組織がいかに複雑で、決まったパターンのようなものはなく、そのときそのときに柔軟性に富んだ選択をするような印象を受けました。右半球や左半球と脳の部位的な部分の比較の話もありましたが、全てが連携していて、補い合うイメージはチーム保育を見ているかのようです。脳がそういう構成なのですから、チーム保育という考え方、方法が実践させてもらっていて、とても馴染むことにしっくりとくる思いです。また「どの領域を発達の同時期に損傷し、どのような療育を受けるかによって、結果は異なってくるのではないか」とありました。損傷後の療育環境が重要であることがわかります。次の絶対音感についても楽しみです。

  4. 〝言語関連の脳領域損傷後の、単純な脳のパターンはないように思えるようだ〟ということで、単純に脳と言ってもその役割や活動などなど、その機能は様々で、さらに領域ごとのつながりも多様であり、脳を研究することは途方もない道のりを歩いているような、そのような感じを受けました。
    脳はなんだか集団を形成して生き抜いてきた人間の在り方と似ていて、誰かがいなくなった人の代わりをするように成長していく、何かが起こるとみんなで解決していくようなチームのような印象です。
    そのように考えていくと、人間は集団を形成して生きている方が自然な感じがします。というよりも、脳によってそのように操作されているような感覚になりました。脳研究はそんな神秘的なものなんですね。

  5. 脳の早期損傷による言語面への影響と言うものには、脳の再組織化による失われた部分を補うような脳の領域において処理するといったものがあるのですね。゛領域を発達の同時期に損傷し、どのような療育を受けるかによって、結果は異なってくるのではないか゛とあることは、臨界期としてとらえるのではなく、敏感期として考えていくことが必要だと考えていくことができます。考えれば考えるほどに、脳領域において、他の領域との関係にある情報が、シナプスにより繋がっており、そういったなかで、それぞれの脳の領域が失われても補えるものなのかなと思いました。この力は、刈り込みされることのないシナプスの力とも推測をたてることができました。

  6. 「発達早期の言語野の損傷であれば、脳内に再組織化が起こり、異なった脳領域で処理することもある」という脳の素晴らしさを痛感しました。言語発達だけでなく、それは他の面でも言えるということで、発達時期である時には常に柔軟に変化させることが可能で、損傷した上で、今後もそれを使用しようとした場合においては、他の分野がその機能を補い合うという働きが脳にはあるということでしょうか。臨界期よりも敏感期。損傷に対しても敏感に反応して対応できる脳を、本当に不思議に思います。

  7. 脳に損傷を受けた場合でも、脳の中で自身が再組織化を行っているというのはすごいですね。脳と聞くととても繊細な場所で、一度でも傷つくと後遺症が残り、再生が難しいのでは?と勝手に思い込んでいました。そういう話を聞くと、人間の持って生まれた柔軟性のすごさに気づきます。さらに「領域を発達の同時期に損傷し、どのような療育を受けるかによって、結果は異なってくる」と書いてありますが、大人や保育者の関わり方によって結果が良くも悪くもなるということしょうか・・・そうであるならば、関わり方はもちろん環境というのは重要になってくるのでは?と思いました。

  8. 「言語関連の脳領域損傷後の、単純な脳のパターンはないように思える」というなんとも脳の奥深さを感じます。このどこがどう昨日するかがわからないというところが「人間らしさ」「個性」みたいなところに繋がるのでしょうか。「どの領域を発達の同時期に損傷し、どのような療育を受けるかによって、結果は異なってくる」ともあり、療育という面では環境が大きく影響してくるということでしょうか。それぞれの分野によって活動が違う脳というのは沢山の工場みたいなものが無数に存在しているようです。

  9. 「現時点では、敏感期があるとまでは言い切れませんが、発達早期の言語野の損傷であれば、脳内に再組織化が起こり、異なった脳領域で処理することもある」とあります。脳内の再組織化が行われるというのはとても驚きです。人の脳はいかに柔軟にできていて、それぞれの機能が連携して起きているのかというのがわかります。発達早期のまだ、はっきりとした脳内領域がはっきりしていないときであれば、その機能はほかが補うような領域の組織化ができる。それは確かに脳の機能が臨界点に達するという「臨界期」というものではなく、「敏感期」というようにある一定の柔軟性の中で脳内の領域を組織化していると考えるのが妥当なのかもしれません。

  10. 言語野に関する今回のブログの内容でした。左半球に損傷を抱えた子どもの実験とその結果に関するものですが、結局、「発達早期の言語野の損傷であれば、脳内に再組織化が起こり、異なった脳領域で処理することもある、くらいは言える」で落ち着いています。人体機能における複雑さは脳だけではないのでしょうが、やはり脳の複雑さは他の臓器を超越している、そんな印象を持ちますね。「早期教育論者が推進するような知能のような高次の認知機能については、科学的な検証は、あまりなされていないのが現状」とありました。それにしてもフラッシュカードや英語教室等を就学前の子どもたちにやらせている保護者は少なからず存在しています。また、そうした需要を喚起する塾もあちらこちらに存在しています。何等かの学説を拠り所として実践しているのでしょうが、どうしたものかと考えさせられますね。

  11. ある言語野を損傷したからといって、必ずしも言語問題を抱えるわけではないんですね。それは、右半球、左半球でもそれぞれの問題が起こったりするんですね。まさに「単純な脳のパターンはない!」ということですね。どの領域を発達の同時期に損傷し、どのような療育を受けるかによって、結果は異なってくるわけなんですね。大学時代に脳のことをすこしですが、学んでいましたが、こういった事例は聞いたことがありませんでした。言語野を損傷したら、言語に問題がでる、というような単純なことだけだった気がします。脳って複雑でとっても面白いです。絶対音感の話もとても楽しみです。

  12. 「発達早期の言語野の損傷であれば、脳内に再組織化が起こり、異なった脳領域で処理することもある」とありましたが、人間の体は不思議なことばかりです。乳児がもともと持つ力にも驚かされますが、成長したり、上達する力もすごいなと思います。自分の体のことでもわからないことが多いですが、今回の脳研究のように知っていくことで、さらに可能性を感じることができると思いました。次回の内容が、絶対音感についてと書かれていましたが、とても興味がある分野なので楽しみです。

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