他人種の顔弁別

知覚の刈り込みについて最初に示されたのは、他種効果です。サイエンス誌に掲載されたパスカリス博士らの論文で、6ヶ月児は、サルの顔をしっかりと弁別していることを示しました。しかし、9ヶ月の乳児になると、その弁別能力を失うことを示したのです。また、大人も、サルの顔を弁別することは出来なかったのです。ということで、幼い乳児は、人間以外の動物の顔を区別することができるのですが、1歳頃までに人間の顔だけを区別するようになっていくということがわかりました。

この刈り込み過程では、音声知覚の場合と同様に、経験が重要な役割を果たしているといいます。パスカリス博士らは、6ヶ月から9ヶ月の間に、サルの顔を見せ続ければ、サルの顔を弁別する能力が維持されるかどうかを検討しました。研究に参加してくれる家庭にサルの顔写真が掲載されている本を渡し、毎日その本を乳児に見せてみたのです。このグループと、そのような経験をしていない統制グループを対象に、9ヶ月時点におけるサルの顔の弁別能力を調べたそうです。その結果、サルの顔を見る経験をした乳児は9ヶ月の時点でもサルの顔を、弁別できたのでが、統制グループは弁別できなかったそうです。この結果は、毎日サルの顔を見る経験の重要性を示しています。興味深いことに、別の研究で毎日乳児にサルの顔写真を見せる際に、ただサルの顔写真を見せるだけではこのような効果は弱く、一つ一つのサルの顔写真に名前を付けて区別を明確にしてみせると、このような効果が強いことも示されているそうです。

これは、動物の顔でしたが、他人種のほうの顔でも同様の効果がみられるそうです。リー博士らは、3、6、9ヶ月の白人乳児に、アフリカ・中東・中国・白人の成人の顔を提示し、サルの場合と同様の手法を用いて顔を弁別できるかを検討したそうです。その結果、3ヶ月児はどの人種でも新しい顔と古い顔を弁別でき、6ヶ月児は中国と白人の顔において弁別でき、9ヶ月児は、白人の顔のみの弁別ができたそうです。やはり、9ヶ月頃までの間に刈り込みの過程があることがわかります。他人種効果で想定されている発達過程は、まず、自分が属する人種への接触による自分の人種に対する選好があるようです。そして、自分の人種に対する選好の結果として、顔全体に対して注意が向きやすくなり、他の人種の顔でも弁別可能になるそうです。その後、様々な顔弁別ができる状態から、自分の属する人種の顔を見る経験を積み重ねることによって、自分の属する人種に対して特化していくと想定されているそうです。このように、顔知覚にも刈り込みの過程があると言います。このような研究は、詳細な議論をするためには知見を積み重ねる必要があるとしつつ、森口は非常に興味深い研究だと言います。

乳児は、様々な知覚能力を有していますが、知覚の感覚間協応にはいくつかの考え方があることを紹介しました。ひとつは、ピアジェのように、個々の感覚が発達とともに協応していくというものです。二つ目は、新生児は、生まれながらに感覚間協応を備えており、その能力の精度が向上するというものです。三つ目は、知覚の発達とは、生後まもなく、複数の感覚が協応して働くというような超感覚的な状態から、視覚や聴覚などの個々の知覚に分化していく過程であるというものです。