脳領域

社会脳に関わる各部位の活動の中で、10歳から12歳の子どもと大人の顔知覚時の脳活動を調べた研究によると、大人も子どもも顔知覚時に紡錘状回を活動させますが、子どもは大人よりも、広い範囲の紡錘状回や側頭の領域を活動させているそうです。一方、子どもよりも大人の方が顔を知覚した際に紡錘状回の広い範囲を活動させるという知見もあるそうです。では、心の理論についてはどうでしょうか?それについては、前頭前野内側部において、大人よりも子どもの方が広い領域で活動することが示されているそうです。例えば、皮肉を理解するためには発話者の意図を理解する必要がありますが、皮肉を理解する際の9歳から14歳の子どもの脳活動をfMRIで計測すると、大人よりも、前頭前野内側部を含めた、前頭前野の広い領域が活動するそうです。

また、神経科学者サクス博士のグループは、6歳から11歳の子どもを対象に、物理的な出来事、人間の外見や人間関係についての話、人間の心的状態についての話を聞かせ、その際の脳活動をfMRIで計測してみたそうです。その結果、6歳から8歳の子どもでは、右の側頭―頭頂接合部において、人間の外見や人間関係などの話と、人間の心的状態についての話に対して同程度の活動が見られたそうです。一方、9歳から11歳の子どもでは、その脳領域は、人間の心的状態にのみ特異的に活動することが示されているそうです。

これは、どういうことかというと、心の理論と関わる脳領域は、児童期から成人期にかけて、前頭前野の内側や側頭―頭頂接合部などにおいて活動が特化していくことがわかっているのです。では、幼児はどうかというと、まだ研究は少ないようですが、ERPを用いた研究が報告されているそうです。それによると、4~6歳児が、コンピュータ版の誤信念課題を与えてみたそうです。この課題は、画面上に箱を二つ置き、主人公がそれぞれの箱に、動物を入れます。その後、主人公がその場を離れた際に、箱は両方開き、片方の箱から動物が現われ、別の箱に移ります。主人公は動物が別の箱に入ったことを知りません。この映像を見た後に、主人公がどこに動物がいると思っているかを聞いてみました。そして、その際の脳波を調べ、課題の成績がいい子どもと、悪い子どもの波形を比較したそうです。その結果、左の前頭葉において、課題の成績がいい子どもは、悪い子どもよりも、大人に近い脳波成分が見られたそうです。

脳活動の計測手法や実験素材が異なるので一概には言えないそうですが、これらの研究から、乳幼児期から心の理論に関わる脳領域は活動していることが示唆されているようです。そして、児童期を通じて脳活動が局在化していくという知見は、相互作用説を支持しているように見えます。しかし、必ずしも相互作用説と一致しない知見も報告されているそうです。ということは、すべての脳機能の発達が、単一の理論で説明できるとも限らないようです。

ここで、心理学者である森口は、こんなことを問題にしています。それは、脳の構造や機能の発達的変化については、脳計測という手段はたしかに新しいのですが、それは、心理学的に研究した発達過程の脳機能を調べているに過ぎず、脳そのものを知るのではなく、脳研究に関する新しい方法論を通じて、乳幼児の心の世界についての新しい像を描いてみたいと考えます。