前頭葉機能

脳の機能的発達についての三つの考え方を提示しています。一つ目が、成熟説で、脳の各領域の構造的発達が、そのまま機能的な発達につながるというものです。二つ目は、スキル学習説と呼ばれるもので、ある問題に熟達化することによって、脳の機能局在がなされるという考えです。三つ目は、相互作用特化説というもので、ある特定の脳領域は、単独で活動するのではなく、他の脳領域とともにネットワークとして活動するというもので、大脳皮質内のいくつかの脳領域においては、脳領域同士が相互作用し、競合することで、機能がある領域に特化していくというものです。スキル学習説と相互作用説は完全に区別することはで来ませんが、成熟説とこれら二つの説の区別はできると言います。ただ、証拠はないので、どの考えが正しいのかはこれからの研究課題であると森口は言います。

では、人間として最も大切な、人間らしさを表わす前頭葉機能と社会脳の発達はどうなのでしょう。前頭葉機能の発達は、実は実行機能の発達に対応しているのです。そして、社会脳の発達は、社会的認知の発達に対応するのです。実行機能は、柔軟に課題を切り替えたりすることで、目標志向的な行動を実現する能力のことです。ということで、神経心理学的な研究から、実行機能は前頭葉との関連が強いことが指摘されているのです。

もし成熟説が正しいとなると、実行機能課題を与えた場合に、ある年齢までは前頭葉は活動せず課題が遂行できませんが、前頭葉が活動するようになってから課題の成績が向上することが予測されるのです。一方、相互作用説に立てば、子どもにおいては前頭葉の一部領域を比較的広範に活動させるものの、年齢とともに活動が局在化することが予測されるのです。これを確かめるために、go(ゴー)、no go(ノーゴー)課題というものがあります。この課題では、ある刺激が出された場合、参加者はボタンを押し、別の刺激が出された場合は、ボタンを押さないように求められます。子どもは、9歳と11歳の時にこの課題を与えられ、9歳時と比べて、11歳時においては下前頭領域の活動は強くなっていたそうです。課題の成績とこの領域の活動に関連が見られたことから、この領域が課題の成績の向上に関連していると考えられます。興味深いことに、9歳時に比べて、11歳時において、背外側前頭前野などの前頭葉の他の領域の活動が弱まったそうです。この結果は、同じ課題でも、年少の子どもの脳活動は比較的特化しておらず、年齢とともに活動が特化していくことを示しているというのです。

また、前頭葉の成熟には長い期間を要するので、成熟説に立てば、成熟早期から前頭葉の活動は見られないはずだと森口は言うのです。しかしながら、近年、発達早期から前頭葉の活動が見られることが示されているそうです。NIRSを用いた研究で、ワーキングメモリ課題中の乳児の前頭葉の活動が調べられたのです。この研究では、乳児に玩具を与え遊ばせた後に、その玩具を布の下に隠したのです。隠した後の遅延時間中の乳児の脳活動を調べたのです。隠された玩具を探索できなかった場合とできた場合の脳活動の違いを検討したところ正しく探索できた場合において、前頭領域の活動が高いことが示されたそうです。

森口自身も、DCCS課題中の脳活動を、NIRSを用いて3歳と5歳を対象にして計測したそうです。