脳はいかに機能するか

ハッテンロッカー博士によって、2つの脳についての意外な発見が報告されました。一つ目は、シナプス密度は出生後すさまじい割合で増大し、多くの分野においては乳幼児期にピークを迎えること、そして、二つ目の意外な結果は、その後シナプスの密度が徐々に減っていくことがわかったのです。すなわち、生後の経験により、必要な脳内ネットワークは残され、不要なネットワークは刈り込まれ、情報伝達効率の良い脳内ネットワークが形成されていくというのです。そして、その刈り込みの発達のタイミングは、脳の領域によって異なることがわかりました。部位間の違いは、脳幹などの生命維持に必要な脳領域の髄鞘化は早く、大脳皮質は遅いことが知られているそうです。また、大脳皮質においても、領域によって異なり、組織学的な研究から、一次視覚野などの脳領域の髄鞘化は比較的早く、前頭前野の髄鞘化は青年期まで要することが示されているそうです。

これらのことが、組織学的な研究でわかってきているのですが、最近ではMRIによる灰白質と白質の量の発達的変化の研究でも、脳の発達は増加の一途をたどるのではなく、様々なネットワークを多めに作って、そこから絞り込んでいくというプロセスをたどることが示されているのです。それらのネットワークにおける情報伝達は、髄鞘化などによって、効率を増していくようです。このような過程を経て、脳は構造的に発達していくと言うのです。

だからといって、構造の発達がそのまま行動や認知の発達につながるわけではないようです。構造と機能の関係について、ゴットリーブ博士が、ある理論を提案しています。彼の理論では、「遺伝子」「脳の構造」「脳の機能・経験」という三者が、発生過程によっていかに関連するかという点を検討し、大きく2つの関係性を提示しているそうです。ひとつは、「遺伝子→脳の構造→脳の機能・活動・経験」という一方通行の関連です。つまり、遺伝子が発現して脳の構造を作り、それに応じて脳が機能し、経験が生まれるというものです。この考えでは、脳の発達は遺伝子に書き込まれた情報が発現していく過程であり、経験とは、遺伝子が生み出すものにすぎないのです。

もう一つが、「遺伝子⇔脳の構造⇔脳の機能・活動・経験」という関係です。この考えは三者の相互作用を仮定しており、たとえば、脳の構造によって脳の機能が決まることもあれば、脳の機能によって脳の構造が変化することもあり、両者はお互いに影響を与えながら発達していくことになります。森口は、脳の可塑性があることを考えると、二つ目の考えの方が妥当性は高いと言っています。

現在の脳の機能的発達研究における最も重要な論点のひとつは、脳領域間の関連が全体としてどのように発達していくかだそうです。特に、大人の脳には機能局在が見られますが、これが発達早期からあるのかという問題が検討されているそうです。研究は、途に就いたばかりだそうですが、発達認知神経科学者のジョンソン博士は、脳の機能的発達についての三つの考え方を提示しています。

一つ目が、現在でも多くの研究者が漠然と採用しているそうですが、成熟説というものだそうです。脳の髄鞘化や灰白質の変化は1次視覚野や1次体性感覚野から始まり、前頭前野などの領域が最後であるということでしたが、成熟説によると、脳の各領域の構造的発達が、そのまま機能的な発達につながるというものです。