味覚や痛み

胎児における味覚についても研究が進んでいます。胎児は羊水の中にいますが、羊水の成分のほとんどは水ですが、ほんのわずかながら母親の食習慣が影響することが知られているそうです。ある研究では、キャロットジュースの影響を調べたそうです。妊娠中の母親が3つのグループに分けられ、A群の母親は、出産前に決められた量のキャロットジュースを飲み、出産後は、水だけを飲みました。B群の母親は、出産前には水を、出産後にキャロットジュースを飲みました。C群の母親は、出産前にも後にも水を飲みました。このような食生活を続け、出産した後に、乳児がキャロットジュース入りのシリアルを好むかどうかを調べてみたそうです。もし、出産前の食習慣が胎児に影響を与え、胎児の味覚が機能しているのなら、出産後にA群の乳児は、C群の乳児よりもキャロットジュースを好むはずです。ちなみに、B群は、出産後の母乳の影響を調べるために行なったものだそうです。

その結果、A群とB群の乳児は、C群の乳児よりも、キャロットジュースを好んだそうです。胎児の味覚は、機能しているということがわかりました。だとしたら、母親の偏食も困りものかもしれないと森口は言います。まわりがうるさく言うと、妊婦のストレスが高まるので難しいところですが、体内環境への一定の配慮は重要ではないかと森口は言うのです。

次に、胎児の痛みに関する知覚も研究されています。この研究は、2つの点で重要です。まず、いつ頃から胎児が痛みを感じるのかという点が、中絶の時期を決める際に重要な意味を持つと言われています。胎児が痛みを感じているのであれば、中絶をするべきではないという議論です。もう一つは、意識の発生と関わる点です。痛みが、主観的なものであるためです。タンスの角に小指をぶつけても、ある人は全く痛くないと報告し、別の人は死ぬほど痛いと報告します。神経科学者ラマチャンドラン博士が、「脳の中の幽霊」という本の中で紹介している幻肢痛の存在がこのことを裏付けていると言われています。幻肢痛とは、交通事故などで四肢をなくした人が、その四肢がないにもかかわらず、痛みを訴えることです。実際には、四肢がないのですが、患者はかなりの苦痛を訴えるそうです。

胎児の痛み知覚は、脳機能計画によって検討されているそうです。NIRSを用いた研究では、早産児のかかとを刺激すると、25週で生まれた早産児でも、体性感覚野の活動が見られたそうです。行動的研究からはちょっと信じられないことが報告されているそうです。在胎27週頃に生まれた早産児は、痛み表情をしないのですが、28週で生まれた早産児は、痛そうな表情をすることが示されているというのです。これらの研究から考えると、受胎後6ヶ月から7ヶ月程度で痛み知覚が見られる可能性が示されているのです。胎児は、そのような早期から、痛みを主観的に感じているようです。この時期を意識が発生する時期だと考える研究者もいるそうです。

近年、胎児の研究の進展は著しく、直接的に胎児の行動を調べる研究も増えてくるのではないかと森口は考えているようです。たとえば、明和博士らは、4次元超音波画像診断装置を用いることで、胎児がおしゃぶりらしき行動をすることを示しているそうです。このような胎児研究から、生得性という概念についても新しい知見が生まれているようです。