誕生前

脳の発生は、受精後3週間程度で神経管が形成され、それが前脳、中脳、菱脳に分化していきます。そして、前脳は大脳と間脳へさらに分化し、菱脳は橋や小脳などへと分化していきます。ニューロンは、脳室帯にある神経前駆細胞が分裂することによって生み出されます。誕生したニューロンは、多くの場合、新しいニューロンによって押し出されるようにして目的地までたどり着きますが、大脳皮質のニューロンは、新しいニューロンが自ら能動的に目的地まで移動します。このように新しいニューロンが誕生し、移動することで脳の構造は形成されていきます。受精後17週頃に脳の基本形が完成します。これ以降、ニューロンは基本的に増加することはなく、細胞死によって誕生までに半数程度まで減り続けています。ニューロン自体に死ぬことがプログラムされているというのです。

私が講演の中で、最近の乳児知見を紹介する中で、「20世紀後半に発見された神経科学の二つの重要な所見」として紹介するのが、「神経細胞の自然な細胞死」と「シナプスの過形成と刈り込み」そして、その所見をもとに、ダーウィニズムが、「遺伝子によって作られた粗い神経組織が、二つの段階を経て無駄を削りつつ成長する」ということを提唱したということです。

誕生し、移動したニューロンは、他のニューロンや身体部位とのネットワークを形成し始めます。髄鞘化のプロセスも胎児期から徐々に始まっていることがわかっています。髄鞘化とは、ニューロンの軸索を、筒状の層である髄鞘と呼ばれるリン脂質で包むことを指すようです。この説明はよくわかりませんが、すなわち、跳躍伝達の速度が向上するそうです。

このように誕生してから脳がどのようにできてくるかという研究と同時に、最近は胎児の研究がさかんになりました。胎児が、母親の胎内で、どのような発達をしてるのか、どんなことを行なっているのか、それは、どのような動機で行なわれているかなどに興味があります。まず、よく疑問に持つのは、胎児に外界の声が聞こえているかという点です。胎教といって、「胎児にモーツアルトを聴かせるといい」とか、「父親も生まれる前から、胎児に話しかけるといい」とか言われています。それについて、森口は、こう説明しています。「胎児は、羊水の中に浮かんでいます。それはプールの中にいるようなものです。さらに、母親の心音など臓器の音が聞こえてくるわけですから、外部からの音は本当に小さいようです。」

初期の研究では、胎児ではなく、誕生児の研究から胎児の聴覚を推定していたそうです。例えば、生まれたばかりの新生児は、初めて聞く物語よりも誕生前の数週間に母親が音読した物語の方を好むことが示されているそうです。ということは、子宮内にいるときに、母親の一つ一つの音声が胎児に伝わっているわけではないでしょうが、声の低周波音を知覚しているのではないかと考えられます。最近では、心拍数などによって直接的に胎児の聴覚が機能していることが示されています。やはり、母親の発話がいくぶんか胎児には届いていることのようです。ただ、モーツアルトなどの胎教には科学的根拠はなく、何がどのようにして胎児に影響を与えるかは不明であると森口は言います。

また、味覚についてもわかってきています。本来、味覚とは舌の上を食べ物が通る時に感じるものですから、胎児はおへそから栄養をとっているわけですから、どうなのでしょう。