複数の方略

子どもの認知発達を、コンピューターにたとえて情報処理能力というハードウェアから考察してきましたが、シーグラー博士は、ソフトウェアである認知方略がどう更新されていくかを分析したそうです。そのときに、ピアジェのようにどういう段階があるのかを記述するだけでなく、どのようにその変化が生じるかを検討し、子どもを調査する前にあらかじめ子どもが使用するであろう方略を想定したました。多くの研究者は、子どもを調査した後に事後的に方略を分類します。しかし、事後的な分類は恣意的なものが多いため、シーグラー博士はこのような方法をとったようです。

彼の研究例として、足し算研究を森口は紹介しています。この研究では、3,4,5歳児を対象に「1+2はいくつか」のような問題を与えます。その結果、3歳児の正解率は2割程度だったのに対して、4,5歳児は7割近く正解することができたのです。そのときに、シーグラー博士が分析したのは、正解にたどり着くプロセスだったのです。この研究では、四つの方略が見出されました。一つ目は、指と声を使う方略です。二つ目は、指だけを使う方略です。三つ目は、声だけを出す方略です。四つ目は、表面的な行動を示さずに数える方略です。この研究で明らかになったのは、これら四つの方略のうちいずれかをひとつだけを使う4,5歳児は全体の2割程度だったということでした。問題によって異なった方略を使う子どもの方が多かったのです。このことから、ある発達段階にいる子どもが、特定の方略だけを使うということはなさそうだということがわかったのです。

彼によると、ピアジェ課題のように子どもにとってなじみのない課題や、逆に非常になじみがある課題の場合には、子どもは特定の方略を使いますが、それ以外では複数の方略を用いて、課題を解決するようです。様々な方略を試して、どの方略がいいかを見極めているようです。このように、子どもが複数の方略を使用しながら、しだいにある方略を使うように移行していくという考え方を、重複波理論と言うそうです。

彼の研究のもう一つの特徴は、どのように変化が生じるかを記述するために、微視的方法を用いた点だそうです。発達心理学では、一般的に横断的方法を用いるそうです。横断的方法では、異なる年齢の子どもに対して同じ課題を与え、その課題の成績を比較します。縦断的方法では、同一の子どもに対して異なった年齢で課題を与え、その成績の変化を検討するというものです。微視的方法は、縦断的方法に近いですが、短期間で繰り返し調査をすることで、より細かく子どもの発達を追跡します。

シーグラー博士らは、4~5歳児に、「3+4」のような足し算を与え、11週間にわたって子どもの方略の変化について検討したそうです。彼が注目したのは、大きい方に小さい方を加えていく方略です。4から数えて、5,6、7と数える方法で、標的方略です。どのような方略から標的方略が生まれたのでしょうか?直感的には、3から数えて、4,5,6,7と数える方略と標的方略の両方を使えるようになって、それからより効率の良い後者が選択される気がすると森口は言います。しかしながら、この研究では、1から7まで数える方法の後に、標的方略が選択されるという結果が得られたそうです。もっとも、標的方略が使用できるようになったからといって、この方略だけを使うわけではありませんが。