知覚能力

様々な研究装置と指標を用いることによって、この時代の研究者は、乳児が有能であることを確信し、彼らの能力を引き出すために様々な指標の有効性を検証しました。このような方法論の進展の背景には、ビデオカメラのような技術の進展があるようです。視線計測の研究では、実験中にデータを分析することは難しいので、乳児の視線パターンを録画し、あとから分析するのが基本だそうです。乳児の有能さの実証に大いに寄与したメルツォフ博士らは、著書「0歳児の能力はここまで伸びる」の中で、ビデオカメラによって乳幼児研究が著しく進展したと言っているそうです。これは、私の園でも実践していることです。現在では、若い人は大きなビデオカメラを持ち歩かなくても、スマホを使って簡単に動画を撮ります。ですから、シャッターチャンスを逃さないようです。

一方で、この時代には様々な手法が提案されたそうですが、現在まで広く使われている手法はあまりないそうです。例えば、視覚的断崖の装置は、興味深い知見を多数生み出していますが、スペースや費用の問題からだれもが用いることができるわけではありません。バウアー博士が開発したような手法も然りだそうです。選好注視法や馴化・脱馴化は、比較的コストも低く、場所もそれほどとらず、様々な研究に汎用可能であるため、今でも広く使われているそうです。

いずれにしても、研究手法の著しい進展が、有能な乳幼児観を生み出したことは間違いないでしょう。

初期の研究は、乳児の知覚能力の解明に焦点を当ててきたそうです。このような研究は需要ですが、心理学者下條博士の著書「まなざしの誕生」など、我が国においても多くの良書が存在していると森口は言います。

視覚については、新生児は目が見えないと考えられてきました。今でもそう考えている人も多くいるようです。しかしながら、科学的な検証の結果、新生児は、視力は悪いものの、全く見えていないわけではないことが明らかになっているそうです。約30cm先にあるものに対して、焦点が合わされており、大人のように焦点を変化させることはできないのです。また、生後直後の乳児でも、動く物体を注視しようと試みますし、顔のような配置の図形を好んで見つめることも明らかになっているそうです。

このような、乳児が30cm先にあるものに焦点が合うという点と顔のような図形を好むという点は、乳児にとっては重要な意味を持ちます。 通常、乳児の30cm先にあるものは、養育者の顔です。乳児は無力ですから、養育者の助けが必要であり、養育者に対して積極的に働きかける必要があります。養育者の顔が見えているということは、自分の生命を守るという意味では、非常に有利であると言えます。これ以外にも、乳児は半年を過ぎるまでには、物体のサイズや奥行き、色なども認識できるようになるそうです。