視線実験

ファンツ博士と、同時期に同様の研究を発表したベリーネ博士の研究により、視線を用いた研究は、一躍注目を集めることになったそうです。代表的な手法のひとつが、選好注視法というものです。この手法は、二つの対象を対提示し、乳児がどちらか一方を選択的に注視するかどうかを調べるものです。たとえば、ストライプの図形と、灰色の図形を対提示し、図形から少し離れたところに乳児を座らせます。この状況で、二つの図形のうち、どちらかの図形をより長く見ることがあれば、乳児がその図形をより好んだと解釈できます。それがファンツ博士の主張だそうです。もちろん、一方を長く注視したからといって、乳児が本当にそちらの図形を好きだとは限りませんし、二つの刺激の間の注視時間に差がなかったからといって、乳児がどちらも好まなかったということにはなりません。

問題点を挙げればきりがありませんが、この手法においては、少なくとも乳児が二つの刺激を区別していることはわかりそうだと森口は言います。この手法により、乳児は単純なものよりも複雑なものを好んで見ること、非対称的なものよりも対称的なものを好んで見ること、パターンがないものよりもパターンがあるものを好んで見ることが明らかになりました。この手法は、単純で再現性もあり、大がかりな装置を必要としないことから、乳幼児研究において急速に広まっていったのです。

選好注視法は、乳児がある対象に対する好みを持っていない場合には利用できないという問題点があります。この点について、ファンツ博士は、さらに馴化・脱馴化法も生み出しました。この馴化については以前ブログで紹介した概念です。この方法は、乳児が対象を見つめる傾向に加えて、新しいものが好きであるという傾向と、すぐに飽きてしまう傾向を持つことを利用しています。乳児は新しいものが提示されると、それを注視し、その対象が何であるかを学ぼうとします。乳児が飽きっぽいことは誰でも知っていますね。研究者がいちばん苦労するのは、研究の都合上、乳児に対して同じ刺激を何度も呈示したときに、乳児が飽きてしまってすぐに見なくなってしまうことだと言います。

馴化・脱馴化法では、まず、乳児にひとつの刺激を繰り返し提示します。たとえば、女性の顔を繰り返し提示するとします。乳児は新しいもの好きなので、見知らぬ女性の顔が提示されると、その顔を見つめます。乳児の目がその顔からそれると刺激を一度消して、再び同じ女性の顔を提示します。このようなことを繰り返すと、乳児はその女性の顔に飽きてしまい、その顔を見つめなくなります。このように飽きたときを馴化と言います。そのとき、別の刺激を提示して反応の回復を調べます。この反応の回復を脱馴化と言います。たとえば、女性の顔に飽きた乳児に、見知らぬ男性の顔を提示したとします。すると、乳児はその顔を見たことがないので、注視します。このような実験から、乳児が男性と女性の顔を区別していることが明らかになるというわけです。もちろん、この場合、乳児が女性と男性の区別をしているのか、ある顔と別の顔を区別しているのかは明らかではありませんので、研究デザイン自体に工夫が必要になるようです。

ほかにも、期待違反法とよばれる方法もあるそうです。それは、乳児が知っていることとは異なる出来事を提示して乳児の興味や驚きを誘発する方法です。たとえば、物理的に起こりえない事象を乳児に提示した際に、その事象に対する乳児の注視時間や心拍数などが変化するそうです。これは、すでに持っている知識と目の前で起きている事象とが一致しないために、乳児が驚いて反応するためです。実際の研究では、この方法を馴化・脱馴化法などと組み合わせて使うこともあるそうです。

視線実験” への11件のコメント

  1. 選好注視法という手法により、問題点はたくさん挙げればきりがないほどにあるとはいえ、乳児の好みが分かる画期的な研究だということが分かります。乳児は、単純なものよりも複雑なものが好きだったり、非対称よりも対称的なものを好むというのも、この研究の成果で、手軽にできていいですね。
    乳児は、新しいもの好きで、飽きっぽいというのは、分かっているのですね。また、飽きることを馴化と言うとありますが、そもそも読み方が分かりませんでした。調べると、「じゅんか」というのですね。
    期待違反法も、馴化・脱馴化法もどちらにしても乳児の興味関心を誘発する方法のようですね。これから読み続けることで、分かってくるでしょうか。並行して、前の記事も読まないと分からないと思うので、読んでいきます。

  2. 乳児の視線実験から得た「乳児は単純なものよりも複雑なものを好んで見ること、非対称的なものよりも対称的なものを好んで見ること、パターンがないものよりもパターンがあるものを好んで見る」「新しいものが好きであるという傾向と、すぐに飽きてしまう傾向を持つ」という情報が、そのまま乳児の保育室の環境に大切な項目となることを感じさせます。発達を促す環境に対して、これらのような特徴を施すことで、より乳児の関心を促す働きとなる印象を受けますし、乳児の保育環境というものが、一番頻繁に変化するべきものであることが伝わってきたりもします。そして、乳児の特徴に考慮した研究環境に設定することで、実験もスムーズになるというわけなのですね。

  3. 「選好注視法」から明らかになった結果として〝乳児は単純なものよりも複雑なものを好んで見ること、非対称的なものよりも対称的なものを好んで見ること、パターンがないものよりもパターンがあるものを好んで見ること〟という3つが挙げられていますが、よく考えてみると大人でもこの傾向が当てはまるように思いました。ということは、大人が興味のあるものは子どもでも惹きつけるものがある、ということになるのではないのでしょうか。乳幼児の環境を考えていく上で大切なものであることを感じます。
    子どもたちの特徴を捉えて環境を考えていくことで興味をひいたり、変えていくことがどのような意味があるのかということを感じさせます。自分の中で今考えていることのヒントを得られたように思います。

  4. 視線を用いた研究で代表的なものが「選好注視法」なのですね。以前あった「白目」に関する内容とつながるなと感じました。しかし、注視したから好きという確証はないように問題は多くありそうですね。さらに、対象に対する好みを持っていない場合には利用できないという問題点から「馴化・脱馴化法」が生み出されたのですね。勉強をする際に手法など出題されるところを先行して覚えようとしますが、乳児に関する様々な情報を獲得していく中で、新たな手法が生まれる過程を先に知れると印象的な分、より覚えやすいです。馴化・脱馴化法によって、乳児が男性と女性の顔を区別していることが明らかになる。そして区別していることがわかって、期待違反法など新たな手法が出るなど、子どもの発達には連続性があるのと同様に研究手法にも連続性があって面白いなと感じました。

  5.  以前にも紹介された手法が改めて書かれ、理解の深まる思いがします。しかし、これだけ優れた研究方法の具体例を知りながら、要するに視線は大切なのだという見解のみに終始してしまいそうな心根を、臥竜塾ブログを読むことで繰り返し正していきたいと思います。
     先日の研修旅行で得たものはとても大きく、中でも先生と乳児の保育を計画立てるにあたっての考え方について、改めてながら目から鱗の思いがしました。子どもの生活と、子ども社会を基盤とした発達への環境構成、これらが溶け合う毎日を考えていく、と足りない頭で得た内容を文章化するとこんな感じで、乳児保育のやれるべきことの量に今は圧倒されてしまいますが、少しずつ手元に寄せられるようになりたいと思います。

  6. 様々な実験の手法により、乳幼児に見られる視線からの特徴は、その発達の時期によって見られるものを考えられます。さらに、以前のブログにあった「見つめる時間」という言葉を思い出します。様々なものから刺激をうけ、多様なものへと自ら働きかけようとする姿は、馴化・脱馴化法の例にあったように、環境を多様化することで、多くの探究心を働かせ、そして、好奇心をもつ、このような環境を日々、保育室には、作っていかなければならないことだと考えられます。

  7. 選考注視法という実験によって、研究が行われたのですね。そして、その研究により「乳児は単純なものよりも複雑なものを好んで見ること、非対称的なものよりも対称的なものを好んで見ること、パターンがないものよりもパターンがあるものを好んで見ること」が明らかになったとありました。この結果からは、乳児が学んでいる、学びを深めているという姿のように思えてきました。複雑なものを好み、物事の法則のようなものを見つけようとしているように思えるそんな姿はまさに科学者と言えるのかもしれませんね。「乳児が飽きてしまってすぐに見なくなってしまうこと」が、研究者を悩ましたとありましたが、おもしろいですね。一瞬、一瞬、ありとあらゆることに乳児が興味を示し、自分の世界を広げようとしているそんな姿の表れだったりするのですかね。そんな乳児の特徴に対応するために、「馴化・脱馴化法」という方法が考えられたのですね。

  8. 視線の実験は面白いですね、。確かに簡単な道具しか用意しなくてもいいの、直ぐにでもできそうです。「選考注視法」によって、乳児の好みが明確になったわけですが、環境に関してもおもちゃにしても、どういう物が好みなのか用意しやすくなりますね。そういう意味で、藤森先生が0歳クラスの環境として、おもちゃを部屋にバラつかせておく理論が理解できます。最後の期待違反法も藤森先生の講演でも同じような事を言われています。改めて、藤森先生の理論、考え方が科学的に証明されてきているのを感じます。

  9. 今回のブログを読むと、研究の大変さが分かりました。「乳児は単純なものよりも複雑なものを好んで見ること、非対称的なものよりも対称的なものを好んで見ること、パターンがないものよりもパターンがあるものを好んで見る」「新しいものが好きであるという傾向と、すぐに飽きてしまう傾向を持つ」などといった情報をもとにさらに研究を重ねる、そして新しい発見をもとにさらに研究していくといった繰り返しの作業だと思います。今では、たくさんのことが解明されていますが、昔の、何も見つかっていない状況での研究には、膨大な労力が必要だったと思います。こうした地道な努力によって現在の乳幼児に関するデータがあることを知っておくことも大切なのかもしれませんね。

  10. 大学の時、自分も人間を対象に実験を行なっていたので、その大変さ、実験ゼザインの工夫などはよくわかるところがあります。乳児を被験者として実験する場合、視線を用いて実験が行われていたんですね。確かに、何かの課題をかさせてそれを行うのは厳しそうですもんね。一方を長く注視したからといって、乳児が本当にそちらの図形を好きだとは限りませんとありますが、その通りですね。人がものを注視することも様々な理由が考えられます。もしかしたら、敵だと思っていて、警戒の意味で見ているのかもしれません。面白そうだと興味の意味で見ているのかも、ただ、好きで見ているのかもとなどなどたくさんの理由が考えられそうですね。しかし、こう言った実験で結果として差が出て、さらに再現性も高いのは面白いですね。

  11. 乳児に対しての実験というのは非常に難しいように思いますが、こうした実験があることを知ると試してみたくなります。「単純で再現性もあり、大がかりな装置を必要としないことから、乳幼児研究において急速に広まっていったのです」という理由がわかる気がします。馴化、脱馴化法とあります。それは普段我々保育士もしているようなこたのように思います。飽きて来てしまったとときにどう脱馴化を行うかとなど考えることはよくあります。幼児に対しては遊びの発展と同じようなことなのですかね。研究となるとまた難しいことがよくわかります。

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