生まれながら

ゴブニック博士は、認知地図にヒントを得た因果地図という視点から説明しているそうです。私たちは脳内に地図を持っており、それは、この道を進めばどこへ着く、などの構造を持っています。この地図は、実際に道を歩くなどの経験(データ)の影響を受けて、変化します。私たちは、この脳内にある地図によって新しいプランを立てることもできるのです。これまでの経験で作成した地図から、今まで行ったことのない道であっても、こう進めばいいだろうと予想が立てられますし、その予想を実行に移すことで、自らの地図が正しいか否かを検証することもできます。

ゴブニック博士は、同様の構造が出来事の因果関係にも見られるとし、それを因果地図と呼んだのです。この地図に、ある事象と別の事象についての観察や経験から、それらの事象についての因果関係が書き込まれていきます。実際の世界では、様々な事象が複雑に絡み合っていますが、因果地図によって、これまで経験したことのない事象間の因果関係を推定することもできると言うのです。彼女は、因果地図と、認知科学や神経科学において近年注目を浴びているベイジアンネットワークを関連づけているそうです。ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)とは、イギリスの確率論研究家トーマス・ベイズ(1710~1761)が提案したためにその名が付いています。それは、「原因」と「結果」の関係を複数組み合わせることにより、「原因」「結果」がお互いに影響を及ぼしながら発生する現象をネットワーク図と確率という形で可視化したものです。過去に発生した「原因」と「結果」の積み重ねを統計的に処理し、『望む「結果」に繋がる「原因」』や『ある「原因」から発生する「結果」』を、確率をもって予測する推論手法ともいうようです。

ブリケット探知機の研究では、ブロックAを載せるという事象と、ブロックBを載せるという事象があり、それらの事象と、機械が作動するという事象の因果関係を幼児が認知できるかを検討していることになるのです。この際に、それぞれの事象は、独立して他の事象に影響を及ぼしているかも知れませんし、相互に依存して影響を及ぼしているかも知れません。この研究で、与えられたデータから、幼児はどれが機械を作動させるブリケットであるか正しく答えることができたそうです。これらの研究から、幼児が単純な因果マップを持っており、因果関係を推定している可能性が示唆されたことになったのです。

このように、乳児は様々な知識を発達早期から持っており、論理的でもあることが示されました。しかし、これらの乳児の有能さを示す研究が増える中で、いくつかの問題が指摘されるようになったようです。一つは、研究の解釈の問題です。たとえば、スペルキ博士らは、一連の実験結果から乳児が様々な物理的知識を持っていると主張していますが、そのような結果は、スペルキ博士らとは異なる解釈もあるという問題です。二つ目は、仮にスペルキ博士らが言うように乳児が物理的な知識を持っているとしても、それらの能力を乳児が生得的に持っていることの証明にはならないことです。彼女らの研究の多くは、生後数ヶ月の乳児を対象にしたものであり、生得的とは言えないというのです。

生物心理学者ブランバーグ博士は、著書の中で、「生まれながらのものであるという生得論者の主張は、おもに生後3ヶ月を超える。つまり2000時間の生活経験を持つ幼児を使った研究に基づいているのである。」と皮肉っています。

生まれながら” への12件のコメント

  1. 「因果地図によって、これまで経験したことのない事象間の因果関係を推定することもできると言うのです」や『過去に発生した「原因」と「結果」の積み重ねを統計的に処理し、『望む「結果」に繋がる「原因」』や『ある「原因」から発生する「結果」』を、確率をもって予測する推論手法ともいうようです』ということは子どもたちが試行錯誤しながら遊んだり、動いたりしている姿に繋がるのでしょうか。「こうやってみたらうまくいくかもしれない」という考えのもと、あれこれ試している子どもの姿を見ることがありますが、推論もしなが経験した原因と結果を織り交ぜながら行動しているとも言えるのでしょうか。そして、これらの研究が進む中で、その研究に対する指摘もあるのですね。「仮にスペルキ博士らが言うように乳児が物理的な知識を持っているとしても、それらの能力を乳児が生得的に持っていることの証明にはならないことです」ということでしたが、このような指摘があることで、また乳児の研究が深まっていくきっかけになるのかもしれませんね。

  2. 人間には「脳内に地図を持っており、それは、この道を進めばどこへ着く、などの構造」があり、「ある事象と別の事象についての観察や経験から、それらの事象についての因果関係が書き込まれていきます」ということで、生まれて間もない子どもはその地図を作成する作業から始まるということで、そういった面から見るのであれば始めはまっさらな「白紙」という意味でもあるのでしょうか。そして、ブランバーグ博士の見解は面白いですね。確かに、生後3ヶ月児というと「生まれて間もない」部類には入ると思うのですが、時間にしてみると「2000時間の生活経験」という現実的な単位が出てきます。しかし、そのほとんどが寝ている時間であるということを考えると、起きているほんの短い時間のうちの出来事が、脳内で最大限に活用されていることが伝わってきます。

  3. ベイジアンネットワークという言葉を初めて知りましたが、「原因」と「結果」の関係を複数組み合わせることにより、「原因」「結果」がお互いに影響を及ぼしながら発生する現象をネットワーク図と確率という形で可視化したものを言うのですね。『望む「結果」に繋がる「原因」』や『ある「原因」から発生する「結果」』を、確率をもって予測するとあることからは、刑事ドラマなどで見る解決までの過程のようなものに感じました。ピアジェの研究結果に対する批判もそうですが、いつの時代にも皮肉を含んだ批判が出てくるものですね。しかし、その批判が次につながるとも思えます。それにしてもブランバーグ博士の「生まれながらのものであるという生得論者の主張は、おもに生後3ヶ月を超える。つまり2000時間の生活経験を持つ幼児を使った研究に基づいているのである。」というのはなかなか面白いですね。しかし、この批判が次につなげられるのかが難しい気がしてしまいます。

  4. 人間の脳内には〝この道を進めばどこへ着く、などの構造を持っています〟という地図があるということなんですね。その地図は最初はどのようなものなんでしょうか。〝実際に道を歩くなどの経験(データ)の影響を受けて、変化します〟とあり、〝変化する〟とあることから、ある程度書き込まれているものであることが予想できました。
    ある程度書き込まれたものから、経験をもとに更新していくものであるのでしょうね。
    そして、それは生得的であるかどうかがわからないものであるという指摘がなされていますが、そのような指摘から、また新たな研究方法が生まれてくるんだと思います。

  5. ゛因果地図によって、これまで経験したことのない事象間の因果関係を推定することもできる゛そして、地図を作る際には、脳内で「原因」と「結果」の情報を経験や得た情報をもとに統計的に処理をする、それが、因果地図として、頭のなかに画くことができるということが、乳児からできているというのは、生命の奥深さを感じるところです。実際にこうして、ああしてなど、それぞれの事象に関して考えるとき、社会的情報や自己の経験したことをもとに考えることが多いと思います。しかし、好奇心という内的な面から考えると、〇〇となっているから、こうなっているという「原因」と「結果」へ加え、なぜという疑問ともし、〇〇したらといった予測、仮説というのでしょうか。そういった形で広がっていくことには、統計的にでたものへ対した、因果のある地図に加えた、変化があるのではと思いました。しかし、これが生得的にもっている能力ではないのか、゛「生まれながらのものであるという生得論者の主張は、おもに生後3ヶ月を超える。つまり2000時間の生活経験を持つ幼児を使った研究に基づいているのである。」゛という2000時間という経験があるとみれば、
    もし、生得的ではないにしろ、それを獲得する能力が素朴にあるという、仮説をもてます。

  6.  ブランバーグ博士の言葉は衝撃ですね。こういった意見、主張を受けながらも自分の研究を進めていくという、研究者に心の強さ、信念というものがなければ続けられるものではないということを感じました。
     ブランバーグ博士の言葉を受けながらも尚確信に思えることは、「2000時間の生活経験」それが長いか短いかはわかりませんが、その時間で子どもは異論はあるにせよスペルキ博士らの研究における子ども像をクリアする程の力を身につける、という力を持っている、ということです。その素地、土台が赤ちゃんにあるということを感じさせる点においては、赤ちゃんの偉大さを否定していることにならないように感じました。

  7. ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)という新しい言葉が出てきました。過去に自分が経験してきた事を基に、これから起きるであろう出来事を予測したり、または自分が望むような結果に導く事も可能なのかもしれません。例えば、最近年長さんの間で将棋が流行っています。友だちを対戦することで勝ったり、負けたりする事で、戦術であったり、相手の手の内を読んだりすると思いますが、これも脳内に因果地図を描きながら将棋をしていると思います。将棋は一例に過ぎませんが、乳幼児期からそういった経験が自分の経験値にプラスされるということを知っておく必要があります。子どもだから、赤ちゃんだからではなく、一人の社会に生ける人間として向き合うことが大切ですね。

  8. 生得的という概念において「生まれながらのものであるという生得論者の主張は、おもに生後3ヶ月を超える。つまり2000時間の生活経験を持つ幼児を使った研究に基づいているのである」と反論があるのは、研究という所に対しての様々な熱い思いを受けます。それと同時に完全な証明ということをすることの難しさを感じます。ただ、もう一つの違った解釈まで言われると元も子もないですが、「因果地図」という脳内の考え方があり、それを乳児期に持っている。それを知っているだけでも我々にとってはとても価値のある情報に感じます。

  9. 「脳内に地図を持っている」という例えはわかりやすいですね。子どもたちが遊びの中で成功と失敗を繰り返し地図を作っているようなイメージでしょうか。ブロックでビー玉を転がし、イメージ通りに転がるようにブロック(クーゲルバーン)の位置を変えたりするところも脳内地図を使っているのでしょうね。トライアンドエラーを繰り返し地図を修正、修正していることがよくわかります。乳児に関しては少し意見も出ているのですね。ブランバーグ博士のいう「生まれながらのものであるという生得論者の主張は、おもに生後3ヶ月を超える。つまり2000時間の生活経験を持つ幼児を使った研究に基づいているのである。」とは確かにそうではなくては生得的とは言えないというのはわかりますが、なにかひねくれているようにも聞こえるのはなぜですかね。

  10. 赤ちゃんの能力が、生まれながらに無いとしても、あったとしても、すごいなと素直に思います。何もできない、何も知らないと思っていましたが、実はそうではなく、様々な事を直感的にわかっており、それを表現する言葉を持たないだけなのかもしれませんね。ブリケット探知機の研究では幼児が単純な因果マップを持っており、因果関係を推定している可能性が示唆されたとあります。結果とその理由がわかっている可能性があるんですね。大人でも、どうして失敗したのかなんて考えますが、そうした結果と原因を反省することで前に進めると思います。赤ちゃんもの凄まじい成長はこう行った背景があるのかもと思いながら読ませていただきました。

  11. 持っている能力が生得的かどうかを判断することの証明することは非常に困難でしょうね。生後三か月の子どもに実験をしたことも2000時間の生活経験を持つといわれてしまうとその証明は難しくなるでしょうね。ただ、赤ちゃんの持つ統計能力やブリケットの判断など少なくとも物理的知識など様々な知識を持っていることの証明はあるのはわかりました。生得性を証明するためにはまた、違った実験手法を見つけていくことが求められているのでしょうね。ただ、こういった研究を受けて保育現場としては、どう捉えていけばいいのかということが求められます。ついこれまでの話でもあったように「赤ちゃんはなにもできない」という意識が多いなか、「赤ちゃんの能力を引き出す」または「保障する」ということが求められているように思います。そして、その意識が「子どもの人格を認める」という意識にもつながっていくのだとも感じます。知ることから、考えること、そして、子どもに対する認識をどう人と共有していくことができるのかしっかりと勉強していきたいと思います。

  12. ゴブニック博士の「因果地図」。「これまで経験したことのない事象間の因果関係を推定することもできる地図」。」私たち人類はこの世に生存し始めて既にこうした地図を持てるだけの力を有していることに改めて驚くのです。「ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)」が紹介されておりました。おっ、これは21世紀の理論か、と期待したらなんと、18世紀イギリスの確率論研究家トーマス・ベイズ(1710~1761)が提案したとか。ゴブニック博士が自身の結論の裏付けを18世紀の研究者に求めている。何か斬新な感じがしました。「スペルキ博士らとは異なる解釈」「それらの能力を乳児が生得的に持っていることの証明にはならないこと」研究の世界は厳しいですね。だからこそ面白いということはあります。研究もせずに結論を楽しんでいる私などは無責任極まりないのですが、まぁ、いいでしょう。面白がる人がいるから研究者も励みになるのでは。さて、今後どのよう乳幼児観が明確にされることでしょう。楽しみに待つとしましょう。

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