つながり

ダンバーは、互いの関係を深め、調整するコミュニケーションとして霊長類において「毛づくろい」をあげています。毛づくろいは、直接身体を接触されるものですが、それを、距離を離れて行なうツールとして進化したものをヒトによる「言語」であるとしています。ですから、私たちの会話は、その中身よりも、つながること自体にまず意義があります。こう考えると、それは声という音を出す行為です。しかも、離れた距離で行なうわけですから、ある程度大きな声です。それを騒音と捉えるようになったら、もう人類の存続に問題がありますね。

ちなみに、言語機能を司る大脳新皮質の大きさは、集団内のメスの数に比例することもわかっているそうです。おしゃべりに夢中になる彼女たちこそ、私たちの脳を発達させ、ヒトならではの複雑な社会・つながりを、そして言語を発達させた功績なのかも知れないとダンバーは考えています。とくに「母親ことば」は、音楽の起源にもつながっているというのです。

また、メディアとしての言語には、病原体の感染しやすい熱帯地域で、同じ言葉を話す集団規模が小さい理由のひとつではないかと考えています。似たような役割は、方言にもあると言います。方言のおかげで、よそ者の区別がつき、自分たちの集団の利益が守られるというのです。このことは、内輪のコトバを駆使する日本のさまざまな小集団にも当てはまるようです。

次に健康とつながりとの関係を考察しています。家族や親類に囲まれ、つながっている者のほうが、より健康になれるということがわかってきていると言います。また、つながりには、脳内の化学物質も関わっているそうです。オキシトシンは、互いの信頼を高め、エンドルフィンは絆を一層強くします。

笑いや音楽も、エンドルフィンをぐんと高め、絆づくりに役立っています。ここで大切なのは、ひとりではなく、集団で行なうということでした。チンパンジーは単独でしか笑いませんが、仲間と一緒に笑うのはヒトならではの特性であり、おそらく大規模な集団の絆を深める役割を果たしているに違いないというのです。

また、ダンバーは、宗教もこうした社会的な絆づくりとして発展したのではないかと言います。笑い、音楽、宗教は、ともに大規模集団でエンドルフィンを分泌させ、結束意識を促す三大メカニズムだというのです。そして、信仰を共有するには、心を読み取る高度な意識レベルが求められます。こうした5次志向意識水準は、約20万年前に、私たち現生人の祖先が登場して芽生えたようだと言います。そして、社会集団の人数が現在と同じ150人になったのも、まさにこの頃だと言うのです。

ダンバーが取り組んでいる進化心理学は、とても興味深い分野ですが、さまざまな興味深い説も、その裏付けが取れていないことが多いようです。そのなかで、ダンバーが注目されるのは、集団の規模と脳の大きさの相関を明らかにするなど、実証的な調査研究をしっかり行なっていることにあるようです。だからこそ、ハイテク時代にある私たちも、「石器時代の心」と共に生きていることが実感されるのだと、「ダンバー数とつながりの進化心理学」という本の出版プロデューサーである真柴隆弘氏は本書の解説でまとめています。