健全なる身体

背の高い男性ほど既婚率が高く、子どもを持っている割合が多かったという研究結果について、当然背の高い男は魅力的だからパートナーを見つけやすく、子どもをもうける可能性が高くなるというのがこれまでの解釈でした。しかし最近、外見の美しさと生殖可能性の関係は、それだけではないことがわかってきたそうです。キングズ・カレッジ・ロンドンのロス・アーデンらがアメリカの軍隊を対象に行なった分析で、身体の対称性は、精子の数及び運動性と相関関係にあることが判明したというのです。美しい人は、それだけで子孫を多く残せるということになります。ダンバーは、なんて世の中は不公平なんだと嘆いています。

オックスフォード大学のあるカレッジに伝わる話を紹介しています。1960年代の学監は入学面接の時、部屋に入ってきた志望者にいきなりラグビーボールを投げたそうです。ボールを受けそこねたらアウト、すかさずドロップキックをしてゴミ箱に入れたら、その場で奨学金の授与が決まります。もちろんこんな選考方法は、お高くとまったほかのカレッジからは苦々しく思われていました。

もっとまじめに選好するカレッジもある中で、そのカレッジは面汚しだったかというとそうではありませんでした。各種スポーツの大学別成績で言うならば、むしろ逆だったのです。さらに1970年代に発表された教育達成度の長期調査で、立場は完全にひっくり返ったそうです。ひとかどのことを成し遂げる人物は、メガネ・肥満のガリ勉タイプではなく、スポーツ万能で勉学優秀、その上社交性も抜群というオールラウンド・プレーヤーであることがはっきりしたというのです。

この結果は、ある意味それほど意外でもないとダンバーは言います。成功は成功から生まれるものだからだと言います。それにしても、「健全なる身体には健全なる精神が宿る」という古からのことわざは、あまりにもそのままの意味ではないかと彼は言います。もちろん、スポーツができるというだけで知能がずば抜けて高くなるわけではないと言います。しかし、スポーツに本格的に取り組んで猛練習に励むことと、学業成績の上昇を結びつけるものがひとつあると言います。それが最近よく話題になる脳内麻薬、つまりエンドルフィンだというのです。

エンドルフィンは、体内で生成される鎮静剤です。身体がストレスにさらされると脳内に大量に放出され、組織損傷で生じる痛みをブロックしてくれるのです。そうすれば、ケガをしたときも身体がある程度自由に動くので、外敵に捕まる危険が少なくなります。しかし、この鎮痛剤は、頭脳活動とどんな関係があるのかというと、その答えの鍵は、私たちが頭脳活動を「知的努力」としばしば言い換えるところにあるとダンバーは言うのです。

天才は、何の苦労もなく優れた業績をあげることができると、人々は、昔も今も、そう信じて疑いません。ルネ・デカルトは、この誤解を根付かせた犯人の一人だとダンバーは言います。ディレッタント気取りのデカルトは1日の大半をベッドの中で過ごし、そこで優れた著作の構想を練ったと言われています。アラビアのロレンスは大学時代、オックスフォードのなかでも優秀なジーザス・カレッジに所属していたのですが、たった数回講義に出席しただけであっさりトップクラスの成績を取ったと言われています。