健康

ダンバーは、人間がいまあるのは、優れた知能のおかげであると言い、これは疑いようのない事実であることはたしかです。私たち人類は、すでに絶滅したものも含めて、あらゆる種の中で最も成功していると言えます。ただ、違う観点から見ると、古今を通じた動物全種の25%ほどは、甲虫だそうですが。それは別として、人類の成功は、さらに、積み上げてきた知識をもとに、問題を徹底的に追求する能力があればこそだと言います。そうでなければ、私たちは地球のすべての大陸を征服し、万里の長城を建設し、ラジウムを発見することはなかっただろう、バッハのカンタータも、モーツァルトのオペラもなければ、月に着陸することもなく、インターネットも出現しなかったと言います。優れた知能は、意外な形で様々な結果を私たちにもたらしてきました。それをいたずらに否定するべきではないと彼は言います。ですから、知能指数、つまりIQだって良いものなのだと言います。

このIQについて、彼はさらにこう考えています。もし、あなたが1921年にスコットランドで生まれた人ならば、IQと聞いてまず思い浮かべるのは、1932年6月1日の水曜日だろうと言います。この日はどのようなことが起きたのでしょうか?彼は、特に大事件が起こったわけではないと言います。サッカースタジアムを観客が埋め尽くした決勝戦があったとか、ヘブリディーズ諸島が予想外の嵐で被害を受けたとか、エディンバラ西部にかかるフォース橋が落ちたとか、そういうわけではないと言います。何ということのない初夏の1日だったと言います。では、その日に何が起こったのでしょうか?

この日は、1921年に生まれたスコットランドの人たちが、学校で楽しい時間を過ごす代わりに、地元の集会場みたいな所に行かされて知能テストを受けたということです。その後の人生の浮き沈みにまぎれて、当時の記憶はもうおぼろげかもしれなくても、いまにして思えば、それは壮大な試みだったとダンバーは振り返ります。知能テストの対象は、スコットランドでこの年に生まれた学童全員だったからです。これは、ひとつの国の学校教育の実態を伝える、完全でユニークな記録となったと言います。

1932年のあの日、テストと格闘した学童たちの努力は報われていると言います。この一斉知能テストから得られたデータは、研究者にとって宝の山であり、そこから貴重な所見がいくつも得られているそうです。特に注目されているのは、IQと健康と死の関係だそうです。知能と健康と死亡率の関係は昔から知られていたそうですが、それはあくまで、社会的剥奪や教育機会の不足といった間接的亜要因によるものとされてきました。しかし、エディンバラ大学のイアン・ディアリが行なった研究で、11歳の時点でのIQと、85歳の誕生日をお祝いできる可能性とのあいだには、もっと直接的な関係があることがわかったそうです。

それを突き止めるのは簡単なことではなかったはずだと推測されます。ディアリの研究チームは、過去の調査に参加した人のその後を追跡して、死亡しているか存命かを確かめたそうです。過去の調査とは、アバディーン市民2800人を対象にしたもので、70代まで生きる可能性とIQとの関係がここではじめて示されたのです。しかし、これだけでは、社会的剥奪の影響とIQの影響を区別することができません。そのとき誰かが、1970年代に行なわれた調査のことを思い出したのです。