最近は赤ちゃん研究が進んできましたが、まだ多くのことがわからないようです。林は、それをこのように説明しています。心理学は「実証的」な学問です。実証的というのは、実験、観察、アンケート調査などを行なってテータを集めて証拠を示し、議論することであり、言葉を使ったやり取りによってデータを集めるのが一般的だと言います。しかし、赤ちゃんはまだ言葉を話せません。外から見える発達についてはいいのですが、心の発達は実証的に調べるためには、どのようにすればよいのでしょうか?
最近、赤ちゃん研究が進んだのは、視線とそのものを見つめる長さからわかるような方法を見つけたということは以前のブログで紹介しました。「目は口ほどにものを言う」ではありませんが、赤ちゃんは、早い時期から人の視線や表情を感じ取る能力があります。特に人間の場合は、白目があるおかげでどちらを見ているかもわかるのです。
現在は、言葉でのやり取りが困難な赤ちゃんでも、何かに興味を持ったとき、驚いたときに、そのものをじっと見るという「注視」に着目することで、何を理解できているか、何を区別できているかを調べることができます。その方法にはいくつかあります。
その1つの方法は、赤ちゃんに2つの刺激を並べて見せて、どちらを長く注視するかを観察するものです。たとえば、赤い丸と青い丸を並べて見せ、どちらか一方をより長い時間見たとすると、赤ちゃんは赤と青の色の区別ができているということがわかるのです。それから進んで、色の区別がわかるのかということは、さまざまな色の組み合わせで同様の実験をする必要があります。このように「好みのほうを長く見る」という人間の性質をうまく使った方法を、「選好注視法」と言うそうです。
しかし、選好注視法では、2つの刺激を見る時間に差がなかった場合の解釈の難しさが残ると言われています。「赤と青の区別ができない」からという以外にも、区別はつくものの、「好みの差がなくて、どちらも同じくらい見た」とも考えられるのです。そこで、好みではなく、「慣れ」という性質を使って調べるのは「馴化・脱馴化法」というそうです。「馴」とは、「なれる」という意味です。同じ刺激をずっと提示して、慣れによって(馴化)赤ちゃんの注意がそれた後に、別の刺激を提示し、注意が回復(脱馴化」するかどうかに着目して、2つの刺激を区別できているかを調べる方法です。
さらに、「ありうる事象」と、手品のような「あり得ない事象」を見せ、「期待に反する」あり得ない方を長く注視するかどうかによって、赤ちゃんの物事への理解を調べる方法もあるそうです。それは、「期待違反法」と呼ばれているそうです。期待違反法では、実験状況に慣れさせるため、あらかじめ馴化の手続きを踏むこともよくあるそうです。
これまで、赤ちゃんは無垢の存在で生まれ、「タブラ・ラサ(白紙)」という考え方だった時代がありました。ところが、手法を使うことで、赤ちゃんはかつて考えられていたよりはるかに有能で、世の中のことを理解している様子がわかってきたと林は言います。生後数ヶ月の時期から、基本的な数を区別したり、物体の動きがわかったりといったように、さまざまな物理的事象を把握していると言われています。
たとえば、「物体Aの下に物体Bがあり、BがAを支えているために、Aが落下しない」というありうる事象と、「物体Aの下の物体BがAとは離れた位置にあって支えていないのに、Aが落下しない」というあり得ない事象を見せると、4~5ヶ月の赤ちゃんはありえない事象を長く注視するそうです。支えるものがなければ、ものは落下することも幼い頃から理解できているのだと林は言います。