志向意識

「~だと思う」「~と考える」といった言い回しができるのは、自分の心の内を了解しているからだと言います。このような自分の心の内を見つめ、それを他人にわかるように表現する力は、これからの時代とても重要になります。今後、高校、大学入試問題は、このような問いが中心になると言われています。さらに、こんな力が必要になっていきます。それが、2次志向意識水準のレベルです。

それは、「きみは……と思っているんじゃないか」という、他者の心の内に意識を向ける能力です。心の理論ができ上がったばかりの5歳児はこの段階であると言われています。こうやって、志向意識水準のレベルはどんどん上がっていき、正常なおとなならだいたい5次志向意識水準まで達し、ほとんど人はそこ止まりだと言われているようです。

これらを整理してみると、「(1)私が思うに、(2)きみはこう考えてるんだろう?(3)つまり私が望んでいるのは、(4)私が……するつもりだと、(5)きみに信じてもらう、ことなんだと」こんな風に志向意識水準は家へ上へと積み上がっていくので、どの水準にいるかが、動物の社会的認知能力を測る物差しにもなると言うのです。チンパンジーを含めた他の大型類人猿は2次、サルは1次までだと言われています。

最近のトラブルに関するニュースを見ると、どうも「自分はこう思う」ということだけを一方的に主張しているだけで、相手がどう考えているのか、他者の心の内に意識を向けることが少ないような気がします。そんな人は、1次止まりなのかな?と思ってしまいます。

さらに、この能力差は、脳の前頭葉の大きさと比例するということがわかっています。脳のそれ以外の部分は無関係のようです。ということは、例えば、学力が高いとか、学歴が高いということとは、この能力は関係ないようです。このことは、ふたつの点で興味深いとダンバーは言います。第1に、脳は視覚情報の処理領域がある背後側から前に進化してきたということだと言うのです。とくに、大脳のいちばん外側をおおう薄い新皮質は、歴史が新しく、ほ乳類にしかないそうです。「思考」に関する複雑な行動のほとんどは、この新皮質が担当しているようです。そのなかでも前頭葉は、「遂行機能」、それは簡単に言うと、意識的な思考と呼ばれる能力と結びついているそうです。

第2に、新皮質、それも前頭葉が大きいのは、霊長類だけの特徴であると言われています。つまり、こうした部分に支えられている心理的能力は、霊長類独自とまではいかなくても、霊長類で最も顕著に発達しているということだとダンバーは言います。

ここで、こんな疑問を持ちます。「では、サルや類人猿は、どんな能力を持っているのだろう?」

サル、類人猿、ヒトで異なるのは能力の種類ではなく、むしろ能力を発揮できる程度ではないかとダンバーは思っているようです。それは、すべてのほ乳類と鳥類が生きていくための基本能力でもあると言います。たとえば、因果関係を把握する、類推する、ふたつかそれ以上の世界モデルを同時に動かす、その世界モデルを未来の状況に当てはめるといったような能力だと言います。彼は、これらの能力が合わさって大きなスケールで展開されるときに、心を読む能力がふと出現するのではないだろうかと言うのです。