動物との区別

これからの時代、人工知能が発達してきます。そんなときの課題は、私たち人間しかできないことは何か?人間ならではの力とは何か?ということです。数年後には、その課題に私たちは直面することになります。それは、人間と人工知能との比較だけでなく、私たち人間と動物を区別するものは何か?ということからその課題へのヒントを得ることができるかもしれません。ダンバーは、そんな疑問について、考えています。

この疑問は、おそらく私たちが種として存在し始めたときからつきまとってきた疑問だと彼は言います。長い間の疑問であるということは、答えが簡単ではないからです。しかも、昨今は分子遺伝学が進歩して人間と動物の差が思いのほか縮まり、私たちの自尊心もそこはかとなく脅かされているとダンバーは言います。それでも人間が動物と明らかにちがうのは、知性の有無だということになっています。人間が築き上げた文化は、進化が成し遂げた最大の業績だろうと彼は言います。私たちが文化を産み出せたのは、ひとつには省察する能力があるからだと言います。省察とは、自分の心を省みることであり、他者のかんじょうや信念にも考えをめぐらせることであると彼は説明しています。

相手の心の内に思いをはせる。子どもがこの能力を身につけるのは、4,5歳の頃だとダンバーは言います。心理学的に言うと、「心の理論を獲得する」ということになると言います。ここで、ダンバーも、何度もこの私のブログで取り上げている「心の理論」を持ち出しています。かれは、それをこう説明しています。

「3,4歳児は天然の行動学者だ。他者を操るすべを心得ている。冷蔵庫のチョコレートを食べたのは誰?と問い詰められても、窓から飛び込んできた緑のこびとが食べたと言いはれば、おとなは信じると思っている。けれどもなぜそんな言い訳が通用するのかわかっていないし、口のまわりについたチョコレートでバレバレなのもご存じない。しかあし、心の理論ができあがると、他者のものの考え方、感じ方を操作できるようになる。つまり効果的なウソがつけるようになるのだ。行動の裏にある意図をたくみに読み取るところなど、心理学者顔負けだ。」

この心の理論こそ、人間と動物のあいだの境界線でした。動物の精神世界は、3歳児のままで止まっています。しかし、ダンバーは、本当に動物は心の理論を持っていないのだろうか?と言います。それは、長い間動物行動学の研究者が抱いていた疑問だそうです。遺伝的に私たちに一番近く、いちばんいとおしい類人猿は、この特徴を持っていないのだろうか?イルカは?ゾウは?ただ悩ましいのは、動物が心の理論を持つことを確かめるには、どんな実験をすればよいかということです。それは、思ったほど簡単ではないと言います。

それでもセントアンドルーズ大学の二人の心理学者が、この問題に切り込む斬新な手法を考えだしたそうです。エリカ・カートミルとディック・バーンは、ご褒美の隠し場所を指示させるといった人為的な行動を要求するのではなく、類人猿の自然な振る舞いから、相手の心を理解しているかどうかを読み取る道を選びました。

それは、どのような実験だったのでしょうか?