ホモ属たち

 アフリカにいたホモ・エレクトスは死に絶えるか、現生人類に進化するかしたと考えられますが、中国奥地には、その後もずっと生き残りがいたようです。ですから、新しく出現した現生人類が極東に達したとき、エレクトスの生き残りと接触したことは大いに考えられます。しかし、偶然かもしれませんが、エレクトスが存在していたのは、せいぜい6万年前までで、ちょうど現生人類が迫ってきた頃なのです。

 フローレンス島で見つかった小さな女性の骨は、それまでの思い込みを大きく変えました。彼女とその親戚たちは、12000年前まで達者に暮らしていたと思われる時代、それはほとんど私たちと同時代と言っていいようです。現生人類が、4万年前頃に、オーストラリアに入ったとすれば、移動の途中、インドネシアの森の中で彼女たちと遭遇していたはずだと考えられます。

 ホビットと仲間たちには顕著な特徴がありました。それは、私たちが見た国立科学博物館の展示の前で子どもたちが、気がついた特徴です。とても小さかったのです。自分たち年長さんと同じくらいの身長しかなかったのです。矮小な人間は、世界にはいまでもいないわけではありません。中央アフリカのピグミー属や、ネグリトと呼ばれる人々は、ホビットと大して変わらない身長だそうです。ただし、脳の大きさは、ピグミーやネグリトは、私たちと変わらないのですが、ホビットの脳は、猿人の祖先並みしかなかったそうです。

 意外だったのは、ホビットの骨と一緒にそこそこ発達した石器も発見され、火を使っていた証拠も見つかったことです。さらにはすでに絶滅した巨大なステガドンやコモドオオトカゲなどの大型動物を仕留めていた形跡もあったそうです。5歳児程度の体格の人間が、体重1トンにもなるステガドンを倒すのは簡単ではありません。そのためホビットは、計画を立てて、互いに協力する能力があったと思われています。もちろん、石器は現生人類の作だとも考えられます。しかし、そうであるにしても、なぜミズ・ホビットと仲間たちと同じ場所から石器が出土したのか?という疑問があるとダンバーは言います。

 石器の持ち主に食べられたから、というのはこういう場合の基本的な解釈だそうです。あり得ない話ではないかもしれません。現にチンパンジーとゴリラは、西アフリカではグルメの食材だそうですし、インドシナ半島ではサルが珍重されているそうです。現生人類から見たら、ホビットもほかのサルと同様、食料源だったのかもしれません。とはいえ、ホビットが食べられたという決定的な証拠はありません。ふつうなら骨に切り跡が残っていたり、骨髄の入っている骨が割られていたり、焼け焦げなど「調理」された跡があるはずだとダンバーは言うのです。結論を出すのはまだ早すぎると彼は考えています。

 彼は、最後に興味深い点を指摘しています。フローレンス島の近くにあって、同じ列島を構成するインドネシア最大のボルネオ島には、森に3種類の人がいると昔から言われてきたそうです。オラン・リンバ、オラン・ウータン、オラン・ペンデクです。オラン・リンバは森に暮らす先住民で、「いちばん深い森の子どもたち」と呼ばれて尊敬されているそうです。オラン・ウータンは、よく知られている大型類人猿です。オラン・ペンデクは、伝説の小さな獣人です。このオラン・ペンデクは、ホビットと接触があった遠い過去を物語っているのではないだろうかとダンバーは考えています。ホビットは、手を伸ばせば届きそうなところにいたのです。