偏見

「二人の少年がいます。一人は親切な子です。あるとき、湖に子猫が落ちたのを見かけたので、子猫が溺れないように救ってやりました。親切な少年はどちらでしょうか?」と子どもたちに質問したところ、驚くような答えが返ってきたそうです。それに答えたのが白人の子どもたちであった場合、当然白人の子はいい子、黒人の子は悪い子と考えてしまいがちなのは無理もありません。しかし、多くの人に衝撃を与えたのは、心理学者のケネス・クラーク、マミー・クラーク夫妻によって行なわれた最初の実験です。そこでは、黒人の子どもたちにも、白人の子のほうがいい子と考える傾向があるとわかったことだったのです。この研究は、ブラウン対教育委員会裁判に引用され、アメリカの公立学校の人種分離政策撤廃につながったのです。アメリカ史上、最も重要な発達心理学の知見と言えるだろうとブルームは言っています。

ブラウン対教育委員会裁判とは、もう60年以上前になりますが、アメリカ合衆国最高裁判所が行った裁判で、ブラウン氏が、国の教育委員会を相手に起こした裁判で、黒人と白人の学生を分離した公立学校の設立を定めたカンザス州の州法は、黒人の子供の平等な教育の機会を否定していると宣言し、それまで、人種分離は修正第14条に違反しない、「分離すれども平等」という考え方があり、分離した人種のための分離した施設が「平等」であると考えられていたものを、「人種分離した教育機関は本来不平等である」という判決を下したのです。

ただし、クラーク夫妻によって行なわれたこの実験を批判する人たちもいます。心理学者のフランシス・アバウドは、被験者に課せられている要求には、不合理な点があると指摘しました。子どもたちは、二者択一を迫られます。そして、両者の違いは一つしかありません。それは、人種です。選択肢は、自分が属する集団をよしとするか、もしよしと言えば、人種差別主義者になりますし、別の集団をよしとすれば、こちらも屈折はしていますが、違った意味での人権差別主義です。子どもたちには、どちらも選ばず、人種は問題ではないと答える選択肢が与えられていないではないかという主張です。

しかし、人種的偏見が、6歳までに固定されることを裏付ける、よく工夫された実験方法があるそうです。それは、心理学者のハーディー・マグラスリンとメラニー・キレンの行なった実験で、6歳から9歳の白人の子どもに曖昧な状況の写真を見せます。校庭のブランコの前で、一人の子が、痛そうな顔をしてしゃがんでいます。その隣に別の子が立っています。立っている子が黒人で、しゃがんでいる子が白人の場合もあれば、逆の場合もあります。カンニングしているとか、盗みを働いていると解釈できなくもない行為を写した写真もあります。子どもたちは、この場面を説明して、それに関する質問に答えるように言われます。

この実験は、クラーク夫妻による研究とは違い、子どもたちは人種を考慮するように強いられてはいません。ところが、子どもたちは、人種を問題にしました。白人の子どもたちは、白人の子が被害者で、黒人の子が加害者に見える場面について、こうした曖昧な状況を悪い行いに結びつけて説明しようとしたのです。ただし、重要なのは、それが、白人の子どもだけが通う学校の生徒に限られていたことです。さまざまな人種の子が通う学校の白人の子どもたちは、登場人物の人種に影響されなかったそうです。