応用

 セミナーで、自制心の大切さの話をしたところ、多くの人から「どうしたら自制心をつけさせることができますか?」という質問を受けました。もちろん、研究はただ研究だけで終わることではなく、実際に子どもたちが自制心をつけようとしているときには、手助けをしなければなりませんし、日常生活の中でどのように活用できるかということを検討しなければなりません。

 ホットシステムには、現在志向の強いバイアスがかかっているので、誘惑に逆らうのは難しいと言います。このシステムは、目の前の報酬は十分考慮しますが、先延ばしにされた報酬は割り引いて考えると言われています。心理学者は、この「将来割引」が、人間にも動物にも見られることを立証し、経済学者は、それを単純な数式にまとめ上げたそうです。ハーバード大学の経済学の教授で、現在ミシェルと研究を行なっているデイヴィッド・レイブソンは、定期的にジムに行くと心に決めているにもかかわらず、めったに行かれない理由を、その数式を使って説明しています。ずいぶんと理屈っぽい話ですが、気持ちをこのような数値で表わすことが出来るのかということには、驚きます。すこし、ややこしいのですが、説明してみます。

将来をどれだけ容赦なく割り引くかは、人それぞれで、レイブソンの場合は、先延ばしにされた報酬の利益を半減させる割引率を採用しているそうです。たいていの人の場合、割引率はそれよりさらに大きいそうです。割引をわかりやすくモデル化するために、レイブソンは、活動のそれぞれに数値を充て、活動がもたらす苦痛や必要とする努力をマイナスの数、得られる報酬をプラスの数として評価しました。彼にとっては、きょうエクササイズする努力は、マイナス6の損失で、エクササイズによって得られる長期の健康は、プラス8の利益です。そして、これらの数は常に、決定を下す人に価値観に基づきます。

 レイブソンは、ジムに行くのを先延ばしにする理由を次のように説明しています。先延ばしにされた健康面での利益を得るために、彼はきょうエクササイズできます。その時に、彼にとっての将来の利益はプラス8として計算され、きょうエクササイズをするには努力が必要なので、マイナス6となります。レイブソンのような現在へのバイアスを持った人が、きょうエクササイズするときの純利益は、-6+8×1/2=2となります。この式では、プラス8と言う将来の利益が、将来の割引のせいで自動的に半減し、それによってきょうのエクササイズの純利益はマイナス2になったのです。これとは対照的に、明日のエクササイズですと、先延ばしにされた努力は、マイナス6、先延ばしにされた利益はプラス8で、両方とも将来のことですから、ともに半減し、(-6+8×1/2=+1となります。

 レイブソンの場合、ジム行きを先延ばしにする純利益は、結局プラス1となり、きょうエクササイズする純利益のマイナス2を上回ることになります。その結果、彼はジムにめったに行かないことになります。このような重み付けの仕方は、一人一人違うだけでなく、同じ人でも様々な活動によって大幅に変わってくるのです。ミシェルは、このように言います。「たとえばあなたは、ジムにせっせと通うが、クローゼットの掃除はいつも後回しにするかもしれない。」

 ここから、どんなことが見えてくるのでしょうか?