冷却するスキル

さまざまな事例から、ミシェルはマショマロを食べるのを首尾よく待てた子は、それぞれ独自のやり方で自制しましたが、実行機能の三つの特徴を共有していたことがわかりました。第1に、自分が選んだ目的とそれに付随する条件、たとえば、もし一つ食べたら、後で二つもらえないといったようなことを記憶し、絶えず頭に浮かべておくこと。そして、第2に、目的に向かってどれだけ進んでいるかを確認し、目的志向の思考と、誘惑をやわらげるテクニックとのあいだで、注意と認知作用のスイッチを柔軟に入れ替えて、必要な修正を行なうことでした。第3に、目的を達するのを妨げるような、衝動的な反応、たとえば、誘惑のもとがどれほど魅力的かを考えたり、手を伸ばしてそれに触れようとしたりすることを抑え込むことです。

今や、認知科学者は、誘惑に逆らおうとしている人をfMRIスキャナーにかけ、人間のこうした驚くべき偉業を可能にする前頭前皮質の注意コントロール・ネットワークを可視化し、これらの三つのプロセスが脳の中で展開するのを目にすることができるようです。

計画立案、問題解決、柔軟な思考を可能にしてくれる実行機能は、言語を使った論理的思考や学業での成功に欠かせないのです。実行機能がよく発達している子どもは、目標を追求するときに、衝動的な反応を抑え込み、指示を念頭にとどめ、注意をコントロールできると考えられています。こういう子どもが、実行機能が未熟な同輩よりも、未就学段階で算数や言語、識字のテストで良い成績を収めるのは、驚くまでもないとミシェルは言います。

実行機能が発達するのに歩調を合わせるように、こうしたスキルを可能にする主に前頭前皮質にある脳の領域も発達することが分かっています。マイケル・ボズナーとメアリー・ロスバーは、2006年に、実行機能に関わる神経回路は、発育中の子どものホットシステムにおいて、ストレスや脅威への反応を調節し、より原始的な脳構造と密接に相互接続しているということを示しました。

これらの緊密な神経の相互接続があるため、脅威やストレスに長期的にさらされると、しっかりした実行機能が発達する妨げとなるようです。ホットシステムが主導権を握ると、クールシステムに支障が出て、子どももうまく機能できません。しかし、逆に、実行機能が順調に発達すると、ネガティブな情動を調整したり、ストレスを和らげたりしやすくなると言います。

実行機能がはなはだしく損なわれると、私たちの将来は限られてしまうと言います。実行機能がなければ、情動を適切にコントロールすることも、邪魔となる衝動的な反応を抑え込むことも不可能になってしまいます。子どもは、マシュマロ以外の誘惑にも抵抗します。たとえば、新しい服に、別の子が誤ってジュースをこぼしてしまったとき、その子を叩いたりしないようにしなければならないためには、実行機能を必要とするのです。実行機能が欠けている子どもは、指示に従うのに苦労し、大人とも同輩とも攻撃的な衝突を起こしがちなので、学校で問題に陥りやすいのです。

しかし、攻撃的に感情を爆発させる傾向のある子どもでさえ、自分の気をそらして自らを「冷却」することができれば、極端に攻撃的ではなくなるというのです。そのようなスキルがあれば、欲求充足を先延ばしにするだけでなく、怒りや、ホットでネガティブな衝動をコントロールする上でも役に立つというのです。

これらの検証は、もしかしたら、園などで多い「ひっかき・かみつき」への対処の仕方のヒントがあるかもしれません。子どもたちに、自分の気をそらして、自らを「冷却」するスキルを付けることができたら、いいのかもしれません。