実行機能

 ここ数十年間で、特に社会認知神経科学や遺伝学、発達科学の分野の新しい発見がありました。そのおかげで、心や脳がどう機能するかを解明する糸口がつかめたようです。そして、その過程で、「自制や認知的再評価や情動の調整は、私たちが何者かという物語の主役になった」という表現をミシェルはしています。そればかりか、若い哲学者たちは、実験主義者に変わり、人間の本質についての新鮮な考えを、実世界で試し始めたのです。哲学の中で、私たちは何者かという問いをしていたのですが、それだけでなく、何者たりうるかということも実世界で試し始めたのです。

 私たちが主体を持ち、物事をコントロールする力をふるい、情報に基づく選択をすることを可能にする状況やスキルは、およそ無限とは言えないということがわかりました。私たちは、運、不運や、それぞれの社会的・生物学的履歴、現在の環境や人間関係が絡んで選択肢を制限すると考えられています。おおむね、予測不能の世界に生きるため、その侮りがたい制約を、そうした状況やスキルは免れないのです。それでも、自制のスキルを発達させ、クールシステムを、分別を持って柔軟に使い、そのシステムが硬直するのを防ぎ、ホットシステムから快楽や生気を搾り取るのを許さなければ、大きな違いを生み出しうるのです。

 クールシステムを駆動しているのは、前のブログで紹介したように前頭前皮質です。前頭前皮質は、注意をコントロールしたり、想像力を働かせたり、計画を立てたり、考えたりすることを可能にし、そのおかげで問題を解決したり、自制を働かせながら長期的な目標の追求に、一生懸命取り組んだりすることができます。すなわち、人間を人間たらしめている大きな部分です。

 未就学児が、お菓子を手に入れるために待てるのも、それができるからです。それと同じ戦略が、人生を通して効果を発揮します。誘惑がさまざまに形に変えるだけの話だとミシェルは言います。そうした戦略が、なぜ、どのように功を奏し、人生にどんな違いをもたらしうるかが、ミシェルにとって次の課題としています。

 ミシェルによるマシュマロ実験は、その結果だけを見ると様々なことを考えます。そして、この実験の特徴は、その結果の差が、その後の人生にどのように展開していくかを考察したことです。幼い頃にホットな目標を追求する際、自発的に克己心を発揮する能力が、一生を通して成功し、潜在能力を最大限に活用するのを助けてくれる、強力な利点を、子どもたちにどうやって提供するかは、保育をする私たちには興味があることです。

 自制能力は、良い人生を築くためには不可欠の要素ですが、単独では、機能はしません。成功するには、さらなら後押しが必要となります。ストレスのネガティブな影響から人を守り、育み、伸ばすことの出来る基盤を提供してくれるものが、なんであり、そうした成功の原動力と、それがどう作用するかが課題となります。

 さまざまな事例から、ミシェルはマショマロを食べるのを首尾よく待てた子は、それぞれ独自のやり方で自制しましたが、実行機能の三つの特徴を共有していたことがわかりました。第1に、自分が選んだ目的とそれに付随する条件、たとえば、もし一つ食べたら、後で二つもらえないといったようなことを記憶し、絶えず頭に浮かべておくことだったそうです。