ホットシステムからクールシステムへ

 ミシェルは、マシュマロ実験を踏まえ、次の課題に向かいます。そのためにまず、ホットシステムにもっと注目すべきであると指摘します。もっと、評価すべきであると言うのです。私たちは、ホットシステムに耳を傾け、それから学ばなければいけないと提案します。ホットシステムは、人生を送り甲斐のあるものにする情動や熱意を与えてくれますし、いつでもではないものの、役に立つ自動的な判断や意志決定を可能にしてくれます。

 しかし、このシステムにも難点があるとミシェルは言います。ホットシステムは、直感的には正しく思える判断を苦もなく、たちまち下しますが、その判断は、完全に間違っていることが多いと言います。衝突を避けるのに間に合うように、ブレーキを踏んだり、近くで銃声がしたときに、身を守るために屈み込んだりさせて、命を救うこともありうるとはいえ、やっかいな状況に陥れる場合もあります。暗い路地で、本当は無実でありながら、怪しげに見える人物に向かって、警察官に早まって銃の引き金を引かせたり、愛し合っているカップルを、嫉妬と不信で引き裂いたり、自信過剰の成功者を、衝動的な強欲や、恐れにおあり立てられた意志決定で破滅させたりする危険性があると指摘します。

 ホットシステムは、抗い難い誘惑を、本人の目の前にぶら下げたり、あまりに生々しい恐れを生み出したり、ほんのわずかな情報から固定観念を抱かせたり、あわてて結論や判断を下させたりといった、度を過ごす働きによって、健康や富や幸せの敵となりかねないと言います。そこで、次の課題として、こうした危険性の一部を吟味し、それをコントロールしたり、ことによると、それから何かを学んだりする方法がないかを探ろうというものです。

 自然選択は、ダーウィン説の厳しい世界での生存とヒトのDNAの拡散を可能にするように、ホットシステムを形作ったのですが、進化の過程のずっと後の方で、クールシステムも生み出します。クールシステムは、想像力や共感、先見の明を、ときいは知恵さえももって理性的に振る舞う能力を、人間に与えてくれます。そのおかげで、私たちは、さまざまな出来事や状況、ほかの人々、自分の人生の意味を再評価したり解釈し直したり出来るのです。

 それは、今までの実験、考察から未就学児が立証したように、建設的な選択肢を考えられれば、自分の感じ方や考え、行動が刺激や人生の出来事から受ける影響を変えられるということがわかりました。そこに、目的を持って、主体的に行動し、主導権を握り、物事をコントロールする力をふるい、人生がどう展開するかに影響を与える可能性が潜んでいるとミシェルは言うのです。

 誘惑に直面したときに、自制心を働かせられるようにする心のメカニズムは、悲嘆や対人関係で拒絶されたときの痛手など、不快な情動を調整したり、「冷却」したりする上でも不可欠の役割を果たすのです。これらのメカニズムは、心理的な免疫系に支えられています。この免疫系は、巧妙に機能し、ほとんどの時間、自尊心を守り、ストレスを和らげ、たいていの人の気分を良くします。あるいは、少なくとも、悪い気分にはさせません。普通、バラ色のめがねを通して、自分を眺めさせてくれ、鬱を寄せ付けないと言われています。このめがねを外すと、鬱になる危険性が高まってしまいます。

 逆に、四六時中かけていると、錯覚に基づいた楽観に陥り、やたらに危険を冒す羽目になると言います。そんなときには、どうすればよいか、どんなシステムを使うとよいのでしょうか?