環境の影響

 本当に、シャンペーンが言うように、何かその子に特質や気質が見えたときに、それは生まれつきなのか、その後の環境のせいなのかということだけにとらわれて、現在のその姿にどのように向き合っていけばいいのかを後回しにするのは、やめた方がいいかもしれません。どちらの影響にしても、だからといって、どうにもなるものではないからです。また、現在もなんらかの影響を受けていることも、考えないといけないからです。

ミシェルも、最終的には、あらゆる生物学的プロセスが、社会的・心理的環境を含む、その時々の状況の影響を受けていると言っています。さらに、母乳や、食べたブロッコリーあるいはベーコン、服用した薬、吸収した毒素から、一生のうちに経験した社会的な相互作用やストレス、勝利、敗北、気分の高揚や落ち込みまで、環境はありとあらゆるものを含んでいると言います。

 しかし、その中で最も大切なことをミシェルは言っています。それは、環境が最も大きな影響力をふるうのは、人生の初期であるということです。たとえば、子どもは子宮の中にいるときすでに、親しいパートナーからの暴力にさらされた母親が経験するストレスを、伝え受けることがあり、人生のずっと後になってからでさえ、行動上の深刻な問題を起こしやすくなることがわかっているのです。子ども時代に受けたストレスは、多くの子どもで、遺伝子の発現に影響を与え、免疫反応や、ストレス反応の高まりを特徴とする防御反応を引き起こす傾向があることもわかっています。これらの研究成果は、赤ん坊の脳細胞の環境が、母胎環境におおいに影響を受けていることを示しているのです。

 さらに、最近の研究では、驚くことに、環境の影響は、受胎に先行することすらありうるということです。その考え方は、遺伝に関する従来の考え方とは相容れない者だそうですが、最近の証拠からは、細胞の非ゲノム的な特徴の一部が、遺伝することが窺われるようです。これは、分子のレベルでは、社会的・物理的環境が引き起こしたこれらの特徴が、最終的に本人の子どもを創り出す細胞の特徴を変えうることを意味するとシャンペーンは指摘しているのです。

 それがどのように起こるのかに関する詳細は、ようやく解明され始めたところだそうです。しかし、対人関係における触れ合いに対処するときの危険と回復力の両方が、世代間で遺伝するというのですから驚きます。これは、青少年や成人の生き方や、食べるもの、飲むもの、吸収するもの、対人関係での触れ合いや経験がもたらす喜びや、ストレスが、彼らの子どものゲノムのうち、何が発現し、何が読まれずじまいになるのかを、部分的に決めるということのようです。

 誕生後の1年間に、前頭前皮質は、自制と自発的変化に不可欠なかたちで発達を始めます。ミシェルは、ホットシステムとクールシステムというたとえを用いるとしたら、「これはやがて自制を徐々に可能にするクールシステムの始まりを告げるものだ。」と言い表させると言います。おおむね3歳から7歳のあいだに、この発達のおかげで、子どもたちは、目標をより効果的に追求するために、注意を移したり、集中したり、情動を適応性のあるかたちで調整したり、望ましくない反応を抑制したりする能力を次第に高めていくというのです。