ホットとクール

 半世紀以上前、カナダの認知心理学者にダニエル・バーラインという人がいます。ミシェルは、彼の考え方を紹介しています。彼は、あらゆる刺激が持っている、相反する二つの面を指摘しました。ひとつは、魅力的で欲求をそそる刺激には、人を夢中にさせ、興奮させ、動機づける特質があるということです。ですから、マシュマロを食べたくなり、食べれば快感が得られます。一方、刺激からは、認知的に捉えられる、非情動的な特徴についての情報を与えます。叙述的な手がかりも得られます。マシュマロは白くて丸く、ずんぐりしていて柔らかく、食べることが出来るというような手がかりです。

 ですから、刺激が私たちに与える影響は、その刺激を私たちが頭の中でどのように表象するか次第で違ってきます。人を興奮させるような表象は、動機付けを与えるホットな刺激の特性に焦点を当てます。マシュマロの、もっちりした食感や甘さという特性や、喫煙中毒者にとっては、吸い込んだたばこの煙の味わいといった特性です。このホットなフォーカスは、マシュマロを食べる。たばこを吸うといった、衝動的な反応を自動的に引き起こします。それとは対照的に、クールな表象は、刺激のもっと抽象的で、認知にかかわる、情報提供元としての側面に焦点を当て、刺激の魅力を強めたりすることなく、それがどのようなものかを教えてくれます。私たちは、そのおかげで、その刺激に飛びつく代わりに、「クールに考える」ことができるのです。

 この考え方を保育に生かすとしたら、どのようなことが考えられるでしょう。この2種類の刺激が与える効果を考えたとき、基本的に環境から乳幼児の発達に刺激を与えるとしたら、ホットな刺激を与えるような環境が必要となります。それは、そのことに夢中になり、興奮させ、動機づけることが必要だからです。そのために、魅力的で欲求をそそる刺激が必要なのです。ホットな刺激というのは、まさにゾーン体験をするということなのです。しかし、自制が必要なときは、クールであることが要求されます。子どもたちは、遊び込むときには、ホットな刺激を受けて心情が意欲になり、遊びを展開していきます。しかし、それを終えるときには、クールでなければなりません。そのときの子どもたちの心情はどのようなものなのでしょうか?それを促すときには、どうすればいいのでしょうか?

 ミシェルは、こんな実験をしてみました。待つように指示して部屋を出る前に、もっちりして甘いマシュマロの味という、ご褒美のホットで欲求をそそる魅力的な特徴を考えるように子どもたちを促します。一方、「クールに考える」条件では、マシュマロを丸くふっくらした雲だと考えるように促しました。子どもたちは、ご褒美のクールな特徴に注目するように仕向けられると、ホットな特徴に注目するように仕向けられたときの倍の時間、待つことができたのです。

 ここが重要だと彼は言います。それは、彼らが、自分が待っている特定のご褒美についてホットに考えると、待ち続けることがすぐに出来なくなったのですが、自分が待っているのとは違う類似のご褒美、たとえば、マシュマロをもらうのを待っているときにプレッツェルというのうに違うものについてホットに考えると、見事に気をそらすことができ、平均で17分、欲求を先延ばしにできたということです。今すぐに欲しいものについて「ホット」に考えるように仕向けられたときには、どうしても待てなかった子どもたちが、それについて「クール」に考えるように仕向けられたときには、簡単に待つことができたのです。