ミシェルは、自制に関する実行プランが目標として掲げる振る舞いは、練習を重ねれば、その振る舞いを促す状況的なキューに遭遇したときには、自動的に実行されるようになると言います。その見解は、多くの人が救われると思います。人類は、長い間、誘惑からどのように遠ざけるかが課題でした。多くの神話や伝説には、それが多く描かれています。それは、もはや、人類の宿命ではないかと思われるほどです。最近、次々と報じられる不倫問題でも、幸せな家庭を持ち、いとおしい子どもがいても、その誘惑には負けてしまうことがあることを思い知らされます。また、喫煙や、病気に時の治療においても、なかなか誘惑に勝てない人が多くいます。しかし、人は、決してそれらの誘惑を遠ざけなければなりません。
それほど、重大なことではなくても、日常、さまざまな誘惑が襲ってきます。ミシェルは、こんな例を出しています。「時計が午後5時を指したら教科書を読む。」「クリスマスの翌日からレポートを書き始める。」「デザートのメニューが運ばれてきても、チョコレートケーキは注文しない。」「気をそらすものに出くわしたときには、いつも無視する。」だれもが、「ある!ある!」とつぶやいてしまうでしょう。
この「イフ・ゼン」実行プランは、「イフ(もし~したら)」が外部の環境にあるとき、たとえば、アラームが鳴ったら、バーに入ったら、などだけでなく、内面的な状態がキューの時、たとえば、なにかがどうしても欲しくなったら、退屈したら、不安になったら、腹が立ったら、などにも有効であると言います。ずいぶん簡単な話に聞こえるかもしれないと彼はことわりながら、事実そうであるといます。実行プランを立てて練習すれば、キューに遭遇したときにはいつも、ホットシステムに望ましい反応を反射的に引き起こさせるようにできると言います。就寝後に歯を磨くのと同じで、時間を経るうちに、新しい連想や習癖が形作られるというのです。
そのような「イフ・ゼン」プランは、いったん自動化されてしまえば、骨の折れるコントロールを楽にしてくれるのだと言います。ホットシステムをまんまと騙して、無意識のうちに反射的に働かせられるというのです。そうすれば、必要なときにホットシステムが台本に沿って望むどおりのことを、自動的にさせてくれるので、クールシステムは休んでいられます。
しかし、誘惑に抵抗するためのプランをあらかじめホットシステムに組み込んでおかなければ、そのプランが最も必要とされるときに発動される可能性は低いというのです。なぜなら、ホットな誘惑に直面したときには、情動的興奮とストレスが増し、ホットシステムを加速させて、迅速で自動的な「ゴー!」反応を引き起こし、クールシステムの効果を弱めるからだと考えられているからです。
メニューにチョコレートのデザートが載っていたり、ビジネス会議のあと、バーで魅力的な同僚に誘われたりしたときのような、ホットな誘惑が現れたときには、しっかり確立した「イフ・ゼン」プランがなければ、自動的な「ゴー!」反応が、勝ちを収める見込みが大きいというのです。しかし、「イフ・ゼン」プランが確立されていれば、驚くほど多様な場面で、さまざまな人々や年齢層でうまく機能し、以前ならとうてい達成不可能と考えていたような難しい目標を効果的に達成する助けになると言います。