人類の宿命

 人は進化の中で、生存のために必要なものを残し、それをより進化させてきました。昨年、NHKスペシャル 「病の起源」という番組が放映されていました。その場bb組の趣旨にはこう書かれてあります。

 「およそ700万年前にアフリカで誕生した人類。その起源は、四足歩行していた霊長類と別れ、二本の足で歩き始めたことにあります。その後、人類は自由な手を器用に使いこなすことで、脳を巨大化させ、高度な文明を築き上げてきました。ところが、皮肉なことにこの進化の過程で、私たちの体には“負の宿命”とも言うべき“病の種”が埋め込まれていたのです。」

 人類は進化の過程でさまざまなものを獲得してきました。しかし、その中で負の物も受け入れざるを得ませんでした。その一つが「病気」です。このシリーズは、2008年にも放送され、そこで取り上げられた「病」には「睡眠時無呼吸症」「骨と皮膚の病」「腰痛」「読字障害」「糖尿病」「アレルギー」が取り上げられていました。これらの病は、人類の進化の過程では宿命的に取り組まざるを得ない者のようです。

 昨年のシリーズでは、いま世界の多くの人々が苦しんでいる病「がん」「脳卒中」「心臓病」「うつ病」を取り上げていました。これらの病は、前回のシリーズ同様、人類が700万年前チンパンジーとの共通の祖先と別れ二本足でアフリカの大地に立った時から、あるいはもっと以前からの進化の過程の中にあるとして、番組の中で悠久の人類進化の過程と、そこに埋め込まれてきたさまざまな病の起源をひもとこうとしていました。

 このシリーズの中に「うつ病」があります。なぜ、取り上げたかというと、現在、働き盛りを襲い自殺に追い込むなど、深刻な社会問題になっているからで、世界の患者数は3億5千万人に達し、日本でもこの10年あまりで2倍に急増しているそうです。しかし、のうつ病も、進化の過程での宿命でもあるのですが、逆に病に至らないとしたら、ある程度のその原因となるものは人類には必要なものなのかもしれないのです。番組の中では、なぜ、うつ病になるかというと、その秘密は、意外にも5億2千万年前に誕生した魚の研究から明らかになってきているそうです。魚でも、「ある条件」を作ると、天敵から身を守るために備わった脳の扁桃体が暴走し、うつ状態になることがわかってきたのです。更に2億2千万年前に誕生した哺乳類は、扁桃体を暴走させる新たな要因を生みだしていました。群れを作り、外敵から身を守る社会性を発達させたことが、孤独には弱くなり、うつ病になりやすくなっていたのです。

 これを読むだけで、何となく悲観主義も人類にとっては必要だったわけがわかります。それは、扁桃体の働きであう、外敵から身を守るために必要な社会性だったのではないかということです。それが、脳が進化したことで高度な知性が生まれ、文明社会への道を切り開いてきた繁栄は、見方を変えれば、文明社会によって社会が複雑化し、人間関係が一変したことで、扁桃体を暴走させ始めたからのようです。

 セリグマンは、悲観主義は、私たちがしばしば必要とする現実主義を支えているのではないだろうかと考えます。人生には楽観主義では正しく対処できない場面があります。それは、外敵に匹敵するような失敗かもしれません。この敵に出会った時に、ただ楽観的に考えているのではなく、きちんと厳しい現実的な見方が必要なのです。そのためにもしかしたら悲観主義が必要なのかもしれません。