五つの方法

 認知治療法は五つの方法を用います。
第1に、3人の子持ちの母親が子どもたちを学校に送り出す時に大声で怒鳴ります。その結果、母親は非常に落ち込みます。「私はひどい母親だわ。私の母だってもう少しましだったのに」そう自分を責め、その説明スタイルは、永続的で、普遍的で、個人的であることを認知療法によって知ります。

第2に、この無意識の考えの反証となる事実を並べることによって、これに対抗する術を学びます。この母親は、子どもたちが学校から帰ってくると、一緒にフットボールをし、数学を教えてやり、悩みごとの相談にのってやっていることを思い出して気分が晴れます。これらの事実に焦点を当てることによって、母親は自分が悪い母親だと自動的に考えるのは間違っていることに気がつきます。

 第3に、自分の特性を見直す説明方法を学び、いつも無意識に浮かぶ考えに反論するのに使うようにします。この母親は次のように言うようになるかもしれません。「私、午後は子どもたちにやさしくできるんだけれど、午前はダメだわ。朝型人間ではないのかもしれない。」これはさっきよりもずっと、一時的で範囲の狭い説明です。否定的な説明をしていると連鎖反応を起こして、「私はひどい母親だ。子どもを持つのに適していないのだ。だから生きている資格もない」という風になってしまいます。新しい説明スタイルを用いることによって、連鎖反応を断ち切ることを学びます。

 第4に、憂鬱なことから、気持ちをそらす方法を学びます。母親は、このような悲観的なことを今考える必要なないことを知ります。プレッシャーがかかっているときに反芻すると、状況は一層悪くなります。考えるのを後にずらしたほうが良い結果を生む場合が多いのです。何を考えるかだけでなく、いつ考えるかもコントロールすることができるようにするのです。

 第5に、自分の行動がいかに多くのうつ病の種になりそうな仮定に支配されているかに気付くことです。そして、それらを疑ってみます。「何でも完璧にできなければ失敗だ」「誰もが私を好いてくれなければ、私はダメな人間だ」「どんな問題にも完璧な解決法があるはずだから、それを見つけなければならない」このような前提がうつ病のもとなのです。それを、楽観主義に変えるとこうなります。「ベストを尽くすことが成功である」「味方の数だけ敵もいる」「人生は臨機応変に大まかにやることも大切だ」

 最近は、自分は誰にも愛されず、才能もなく、駄目な人間だと思い込んでうつ病にかかる若者の数はかつてないほど増えているとセリグマンは言います。認知治療を受けるにしたがって、自分が救いようもないほどの否定的な会話を自分と続けてきたことの気がつきます。治療に訪れた女性患者が、ある晩遅く恋人が不能になった時、「私のことをむかつくと思っているからだわ」と考えたことに対して、セリグマンは、「道をふらふら歩いている酔っ払いに、むかつく、と言われたら、深刻にはとらないだろう?」と尋ねます。彼女は、「もちろんです。」と答えたことに対して、「でも、自分が同じくらい根拠のないことを自分自身に言った時は信じるんだね。自分の言うことだから信用できると思っているのだろうが、それは違う。誰でも酔っ払いと同じくらい真実をゆがめることがよくあるんだ」とセリグマンは諭します。そう言われた彼女は、いつも無意識に頭に浮かんでいた言葉に対して反論することを覚えていきます。すると、不能になった恋人は愛を交わす前に、1時間で半ダースの缶ビールを飲んでいたことを思い出します。こうして、自分と楽観的な対話をするという重要なテクニックを身につけていきます。

 失敗すると思えば、失敗しやすいことを学んでいきます。そして、彼女の説明スタイルは永久に悲観主義から楽観主義へと変貌したのです。