いろいろな人生において、それが小さいころにどのような境遇だったのかを知ることはとても困難なことです。現在の境遇から、その後の人生をどう送ったかという追跡調査であれば可能なのですが、過去にさかのぼることはできないのです。しかも、それまでの境遇を調べることはできますが、それまでどのような考え方をしてきたかとか、子どものころにどのよぅな説明スタイルを持っていたかを調べることは、客観的に調べることはできないために、ほぼ不可能だと思われます。ですから、グレンの推論を証明するためには、タイムマシンにのって過去に戻らないといけないのです。
そんな時、若い優秀な社会心理学者のクリス・ピーターソンから、非常に創造的なアイデアの提案があります。それは、説明スタイルのアンケートに答えてくれない人々、それは、過去の人だけでなく、スポーツの花形選手、大統領、映画スターなどの人たちがいますが、彼らの説明スタイルを診断する方法を考え出します。クリスは、選手が答えて過去の質問事項のように扱った、つまり、もし選手が「向かい風だったので、ゴールをミスしてしまった」と言ったとすると、その言葉を1から7までの段階に採点します。「向かい風だった」というのは、風ほど永続的なものはないから、永続性は1、向かい風が影響を与えるのはボールをキックする時だけで、恋愛問題の邪魔をするわけではないから、普遍性も1、風は選手のせいではないから、個人度も1、「向かい風だった」というのは悪い出来事の説明としては非常に楽天的だということになるのです。
面白いことを考えるものです。ちょっとした発言を分析するだけで、このような診断ができるのですね。さらに、クリスはこの選手の発言をすべて採点して平均点を出すことによって、アンケートなしでも説明スタイルを得ることができたのです。そして、このようにして得たこの選手の特徴が、アンケートをしていれば得られたであろう特徴とほぼ同じであることを示したのです。この分析方法を、「説明スタイルの逐語的内容分析」と呼ぶそうです。
これこそタイムマシンであるとセリグマンはグレンに説明します。これは、アンケートに答えてくれない現代人に使えるだけでなく、答えることのできない、つまりすでに死んでいる人たちにも使えることを発見します。そうすれば、1930年代に紅蓮の前任者たちが行ったバークレーとオークランドの子どもたちの面接記録の原本を使えば、50年前の一人一人の説明スタイルがどうだったのかを分析することが可能になるのです。そこで、公式記録保管庫をあたってみると、初期の面接から、その後少女たちが母になり、祖母になるまでのいろいろな段階で行われた面接が、完全な形で記録に残されていたのです。セリグマンたちは、これらの記録から、一人一人の女性について説明スタイルを出していくと、グレンの推測は大部分正しかったことがわかったのです。
それは、上手に年を取った中流層の女性たちは楽天的な傾向にあり、みじめな晩年を送った貧困層の女性たちは悲観的傾向にあったのです。そのほかに、この方法によって、様々な人たちの楽観度を測れるようになりました。幼すぎる子どもの話から原因説明に関する発言を抜き出して採点することもできるし、ずっと昔になくなった歴代の大統領の楽観度も知ることもできるし、国民の楽観度が時代とともに増したか、減ったか、またある文化や宗教が他よりも悲観的であるかどうかも分かるかもしれないのです。