無力

 セリグマンは、二通りの見方をする人たちの研究をします。ひとつの種類は、楽観主義者といわれる「オプティミスト」と、悲観主義者といわれる「ペシミスト」と呼ばれる人たちです。25年間研究を続けてきた結果、それぞれに特徴があることに気がつきます。ペシミストの特徴は、「悪いことは長く続き、自分は何をやってもうまくいかないだろうし、それは自分が悪いからだ」と思い込むことです。一方、オプティミストは同じような不運に見舞われても、正反対の見方をします。「敗北は一時的なもので、その原因もこの場合だけだ。そして、挫折は自分のせいではなく、その時の状況とか、不運とか、他の人々によるものだ」と信じます。オプティミストは敗北してもめげず、これは試練だと考えて、もっと努力をするものです。

 セリグマンの研究によると、挫折の原因を考える時、どちらの見方をするかによって結果が変わると言います。数百例の研究結果から、ペシミストの方があきらめが早く、うつ状態に陥りやすいことを証明しました。まあ、これは当然のような気がしますが、それをはっきりさせたのです。しかも、これらの実験から、オプティミストの方が学校でも職場でもスポーツの分野でも、良い成績を上げることもわかりました。オプティミストは適性検査でも常に予想よりも高い点を取るし、選挙に出ればペンミスとよりも当選する可能性が高く、健康状態も良くて、上手に年を取り、生活習慣病にかかる率もかなり低いのです。平均よりも長生きするという推測さえも、ある程度の根拠があると彼は言います。

 それでいながら、驚くほど多くの人々が悲観主義に深く染まっているか、そうでなくても、かなりの割合で深刻な悲観主義的傾向にあることが、何十万人もの人々をテストしてみてわかったと言います。しかし、自分がペシミストかどうかを知るのは簡単ではないと言います。ですから、自分ではそれと知らずに暗い人生を送っている人も少なくないと言います。そして、それはうつ病につながっていく可能性が大きいのです。
しかし、悲観的な態度は根深いもので、一生変わらないものだと思っている人が多いかもしれませんが、セリグマンは、悲観主義から逃れる方法はあると言います。ペシミストはオプティミストになることができるというのです。

生まれたばかりの赤ん坊は自分で何もできません。ほとんど反射だけで生きています。赤ん坊が泣くのは、痛みや不快さに対する反射であって、自分で泣くことを選択しているわけではありません。かろうじて自分の意志で動かしている筋肉は、吸うときに使う筋肉だけです。

セリグマンは、発達からこう捉えています。それが、3~4か月で手足の初歩的な動きをコントロールできるようになります。腕をバタバタ動かすだけだったのが、何かを取ろうとして手を伸ばすようになります。そして自分の意志で泣けるようになり、母親に来てほしいときには大声でわめいて、両親を困らせるようになります。1年後には、二つの奇跡的な自己コントロール能力が備わります。最初の1歩と最世の言葉です。すべてが順調にいき、子どもの精神的・肉体的ニーズが最低限満たされれば、それから先の年月で無力さはどんどん失われていき、自己コントロールの範囲が増していきます。

悲観主義現象の核にあるのは「無力」であるとセリグマンは言います。しかし人の一生は無力なところから始まるというのです。