競争

アメリカ心理学会の会長に選ばれたセリグマンは、まず、それまでの心理学を見直します。「心理学は、病気について、苦しみについて、悩みについて多くのことを分析し、悲しみや不安と戦う方法を見つけ出してきた。しかし、もっと幸せになる方法の見つけ方は、遊園地や、ハリウッドやビールのコマーシャル任せになっていた。科学は何の役目も果たしてこなかったのだ。」そう彼が言うように、心理学が教えてくれるのはどうすればみじめさから抜け出せるかであって、人生で何がベストか、そのように生きるにはどうすればいいのかではなかったと言います。そのために、彼には、心理学は不完全なものと見えてきていたのです。

彼は、“幸せ”は科学的に扱いにくい観念ではありますが、追求していくと三つの異なった形になると言います。第1に、“心地よい人生”のために「大切なのは幸せになりたいという意欲」と信じ、 ポジティブな感情を拡大するためのスキルを学ぶこと。第2に“物事に没頭する人生”のために「あなたにとっての強みと美徳」を発見し、職場、恋愛、友情、子育て、娯楽に最大限に使えるよう人生を練り直すこと。第3に、“意義のある人生”のために「幸せというゴールを目指して」、何か自分よりも大きな存在に帰属し、奉仕するため、自分の才能と力を再考の形で使うこと。の三つです。

この本「オプティミストはなぜ成功するか」で提案するのは、三つの幸せの中でどれか、あるいはすべてに向かって歩みだすきっかけとなるように書いたとセリグマンは言います。この本を読むことで、それぞれの人が持っているポジティブな感情は強化され、持続するであろうと言います。

そして、「楽観主義は人生にはなり知れないほどの価値をもたらすと言います。ポジティブな将来を強く信じれば、国や神や広い意味での家族など自分よりも大きな存在のために、一心に力を尽くせるようになるだろう」と序論の最後に付け加えています。

また、再販した時の序論の中で彼は「自尊心運動」について書いています。よく保育界でも「自尊感情」がテーマになります。しかし、自尊心について少し違ったとらえ方をしているのではないかと指摘しています。自分の体験からこう振り返ります。彼には4歳から28歳まで8人子どもがいます。ですから、「丸々1世代にわたって毎晩子供に本を読み聞かせる機会に恵まれ、この25年間で児童書に大変変化が起きたのを見てきた。」と振り返ります。その変化とはこのようなものです。

25年前は、子どもの本といえば「ちびっこきかんしゃだいじょうぶ」に象徴される、社会でうまくやっていく、頑張って障害を克服するというものだったそうです。現在の児童書は高い自尊心を持たせ、自信にあふれさせ、気分をよくさせるものだと言います。これは、自尊心運動の現れであると言います。この運動は、1960年代に何かにつけ先進的なカリフォルニア州で始まりました。1990年、カリフォルニア州議会は、薬物依存、自殺、生活保護偉人、10代の妊娠、うつ病に対する「ワクチン」として、自尊心をすべての教室で教えるべきとする報告書を指示しました。

そのために、IQテストが消滅します。それは、点数の悪い子どもたちが気を落とすといけないからの理由です。公立校では、能力別クラス編成もこの運動の影響で廃止されます。それは、下のクラスに入れられた子どもたちが気分を悪くしないようにという配慮です。この運動は、「競争」という言葉を忌まわしいものとしたのです。

なんだか、日本でもある時期の学校教育を思い出します。