ドイツ報告2014-17

PISAの学力調査は、15歳を対象にしていますので、その結果が悪いとなると、当然、15歳あたりの年齢においてか、その直前の教育について考え直そうとするのが普通ですが、ドイツでは、15歳の学力低下の要因が早期の教育にあるのではないかということで、行政はその直後、小学校入学前からのドイツ語授業の強化など、就学前を対象とするドイツ語教育に関する施策を、矢継ぎ早に展開していったのです。そして、行政主導で、陶冶課題を実現しようとしていきます。そのために、まず、連邦政府に主導された保育施設の「教育的質」の標準化をめざします。いわゆる質のスタンダード化を目指します。その作成に向けての議論を、1999年、連邦政府の家族・高齢者・女性・青少年省が専門家たちに要請しました。

その議論は、もちろん突然と指導されて行われたわけではなく、すでにその数年前から、いくつかの研究グループが、保育施設の諸活動の質の評価と測定尺度についての経験的研究を開始していたのです。それらの研究を通して実際に、それぞれの施設の活動の「教育的質」の実態がさまざまであることが明らかにされていたのです。これらの研究グループは、2002年に、施設面積や子どもの人数に対応する保育者数などの外的、構造的な条件について、また保育者と子どもとの間の相互作用に関わるような、活動の質的プロセスに関わることについて、一定の評価基準が公開されました。

しかし、その一方では、本来は測定されるべき陶冶の内実そのものについての議論を先行させ、それに基づいて教育活動の測定の尺度を作成するべきところを、行政主導で、測定の尺度がまず作られ、結果的に、その尺度に基づく測定が一般化することで自動的に陶冶の質が規制されていくのではないかと懸念されます。それは、つまり、陶冶の内実そのものの議論がなかったということにならないかという懸念が、専門家たちの間から出されました。

そのような懸念に対して、ただ反対するとか、拒否するということはしないで、専門家たちは、具体的に陶冶の内実を定義しようとしました。まず、状況的アプローチに、陶冶の可能性を期待する試みをしました。この状況的アプローチはもともと、民主主義的な価値へと子どもたちを形成していくことをめざす学校教育改革の動向の影響を受けて作られてきたものでした。その試みを進める中で、次第に社会的なテーマに収斂していきました。もともとドイツの幼児教育関係者の間では、伝統的に、幼児教育は認知的教育ではなく、社会的教育に主眼を置く傾向が強い国でした。しかし、陶冶を中心的な任務とする幼児教育の在り方についての展望を開くことには、消極的でした。

 それは、陶冶という概念がまだはっきりしていない中、学習と陶冶といった成績重視の世界を早められてはならない、というのが幼児教育関係者の理解した課題だったからです。子ども期は『学校化』されてはならないのだ!」と、幼児教育の研究者でフリーライターでもあるエルシェンブロイヒは発言しています。

具体的に陶冶の内実を定義しようとした二つめの試みは、社会構成主義といった、英米圏の心理学、幼児教育学において展開されている概念によって、陶冶過程を捉えようとする試みでした。陶冶を、一般的議論の概念にあてはめ、スタンダードなものとして構築しようとしたのです。つまり、子どもの発達を、子どもと大人の相互作用の帰結として捉えていこうとする立場をとったのです。