距離感

 日本では少子化になってだいぶ経ちます。厚生省(当時)がまとめた89年の人口動態統計で、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)が過去最低の1.57となったことが発表されました。これがいわゆる「1.57ショック」です。このショックから様々な手を国は打つようになりますが、それは、親子の関係にも影響してきました。現在この子たちは25歳くらいになっていますので大学を卒業し、社会に出始めた年齢です。そこにいろいろな問題が起き始めています。それに対して開成ではどう考えているのでしょうか?

 柳沢氏は、保護者の問題をこう捉えています。「今は一人っ子が多いこともあり、どの親も子供に対してすごく手をかけて育てます。ただ、そのせいで、子離れや親離れができていない家庭が増えているのは問題ですね。僕がよくお母さん方に言うのは、“子供に干渉しすぎないで欲しい”ということ。身の回りの最低限のことは自分でさせて、できるだけ手出しをしないでくださいとお願いしているんです。子供が中学生になったときにうまく母親が子離れをしないと、子供がゆがんでしまいます。」

その“ゆがみ”についてこう説明しています。「中学生であっても生徒たちには“オレは大人だ”という自意識があります。でも、家に帰ると母親がいて、べったりと乳飲み子のように世話を焼く。すると、どうなるか。子供の価値観が、学校と親の間で、股裂きのような状態になって、バランスが崩れてしまうんです。ここでスムーズに移行できればしっかりとした子供に育ちやすい。」

私は、少子化になると、親子の距離感が問題になるであろうと思ってきました。しかし、以前のブログにもありましたが、子どもにとってはある程度の逆境が必要であるとわかっていても、なかなか逆境にさらすことには抵抗があります。しかし、親子の距離感は夫婦の距離感にも影響すると柳沢氏は考えています。「昔は平均寿命も短かったから、子育てが終わる頃には人生の終焉を迎えていたけれど、今は子育てが終わった後、もう1回分くらいの人生がある。そこをどうハッピーに過ごすかを考えると、夫婦のあり方を見直して、うまく関係性を作っていくことが大事じゃないかと思うんです。そのためには、“子供がすべて”と考えるのではなく、“子どもは夫婦の闖入者”というイメージを持っておく。すると、子育てが終わったあとも、夫婦がハッピーでいられるような気がしますね。」

開成校の生徒の話から、親子、そして夫婦の関係に対談の話題は変わってきました。そして、夫育てになりました。そして、ほめ方に移ります。

柳沢氏は、「人間誰しも褒められたらやる気が出るし、伸びていきますからね。それは夫婦でも、子供でも、会社の部下でも同じ。いくつになっても褒められるのは単純に嬉しいものです。ただ、褒めるのは、実は難しい。上手に褒めるためには、褒める側に明確な価値観がなきゃいけない。“私はこれが望ましいと思っている”という価値観がないと、思いが伝わらない。だから、みんな褒めるのが下手なんです。」とただ褒めるのではなく、上手に褒めることが必要といます。「漠然と“いいね”と褒めるのではなく、具体的に“この項目がこんなふうに良かった”と伝えることです。叱ってばかりでは、“やっちゃいけない”というメッセージしか伝わらないので、“それならやらないほうがいい”と指示待ち族を作ってしまうんです。」

年齢は違うとしても、この考え方は、乳幼児にも言えることのような気がします。