自己発揮

 高橋氏と柳沢氏との対談での開成の生徒とのやり取りの話は、ずいぶんと理屈ポイと思えますが、そこに流れるものの中には、教育の原点を感じるものがあります。

柳沢氏は、「我々は方法論を教えないんですよ。それは自分で導き出すほうが、最終的には自分のものになる。経験ある人が教えた通りにやれば、もっと上達するかもしれないけれど、それは教育ではないというのが我々の考え方ですね。」

開成の巨砲、長江くんが、柳沢氏に「僕はメジャーリーガーになります。なれますか?」と聞いてきたときに、柳沢氏は、彼に「ああ、なれるよ」と答えます。それは、「目標を掲げて、それに挑戦していく。その過程で無理だとわかったら、新しい目標を設定すればいいから。開成の生徒だって、やってみなきゃわからないからね。」と答えています。「自分らしさの飽くなき追求が開成イズム」ということです。

また、開成の運動会の話は、全く私の出た高校と同じようです。ただ、開成と違って高校生だけですのでそこが少し違いますが、自分たちでつくり上げるという点はそっくりです。私は1年生の時に体育祭準備委員演技係でしたから、体育祭が近づくと、自分の授業には出ないで、各クラスに演技指導に行きました。そのために、体育の先生に授業を借りに行くのです。体育祭には、一切先生は口も手も出しません。すべてを生徒たちだけでやりました。そして、体育祭が終わると、次の日から文化祭準備委員会が発足します。そんな1年でした。

開成でも同じようなことが行われているようです。「開成では、毎年5月に行われる運動会の準備を1年間かけてやるんです。中1から高3まで学年を超えて、1組なら1組、2組なら2組と、組ごとに合計8つのチームに分かれて準備を重ねる。そして、運動会を仕切るのは高3の役目。彼らが競技指導も行います。1年かけて準備しなくてはいけないので、開成では高校2年と3年はクラス替えがないんですよ。そういう意味では、運動会を中心に回っている学校といっても過言ではないかもしれません。畳24畳分の大きな壁画を作ったり、応援歌を作詞・作曲して、みんなで練習したり。準備は組ごとにやりますから、壁画の原画を作れる子、作詞や作曲ができる子が最低8名ずつ必要になるわけです。ほかにもパンフレットを作る係、庶務係、記録係、衛生係など、全員が必ず何らかの役割を兼任します。」

私が、高校でのこのような体験から学んだことは、自由とともに自己責任ということ、そして、自分の得意分野に気がつくことでした。開成でも、柳沢氏は、「我々が一番気をつけているのは、生徒たちになるべく早い段階で自分の“居場所”を見つけさせること。そして“これがやりたい”と思えることに出会わせることです。」と言っています。そして、「自分の自信が表現できるような場所を見つけることができれば、必ず伸びる。だから課外授業や部活動、運動会といったさまざまな場を用意しているんですね。」

そういったことがきっかけになって、芸大や芸術系に進む学生もいると言います。なかには東大の理三に進学してもおかしくないくらい優秀だった子のなかには、画家になった卒業生もいるそうです。「開成=東大進学と思われがちだけど、実は結構ユニークな進路を選ぶ子も少なくないんです。競馬の調教師や花火職人になった子もいますしね。」そこには、それぞれの得意分野を尊敬し合う風潮があるからだそうです。