有効な支援

 アメリカでは、統計的に見て保護者はあまり教育を受けておらず、一度も結婚したことのないシングルマザーである確率が高いのです。また、保護者は虐待、あるいは育児放棄の疑いがあるとして児童福祉局に報告された可能性も統計的に高いのです。神経科学者や心理学者の研究からわかっているところによれば、こうした家庭に育っている生徒はACEのスコアが高く、保護者との安定した愛着関係を築いている可能性が低いのです。これによって、実行機能の能力も平均より低くなる傾向が強く、対人スキルに欠け、じっと座っていれなかったり、指示に従うことが出来なかったりするのです。それが、教師の目には問題行動に映ってしまっているのです。

 こうした子どもたちが猛烈に助けを必要しているにもかかわらず、学校改革で作り出された方策はきちんと機能しているとは言えないとポールは指摘します。低所得層の中でも比較的余裕のある、年間収入41000ドル前後の家庭の子どもについてはかなり有効な支援策が講じられてきました。しかし、さらに深刻な状況にある子どもたちに手を貸す確実な方法は、実際のところまだ誰も見つけていないとポールと言います。さらに、現在つくり上げてきたのは政府の機関やプログラムによるバラバラな、その場しのぎのシステムにすぎないと指摘します。それでは、子ども時代の一部、思春期の一部を断片的に支援することしかできないというのです。

 なんとも、日本においても耳の痛い話です。この学校改革においての問題点は、幼児教育においても然りで、少子化問題、待機児解消、後のひきこもり、現代うつ病の増加などの問題も対策が功を奏しているよりも、悪化している感があります。どうしていったらいいのでしょうか?

 このようなとぎれとぎれのパイプラインの問題は、同じようにポールは何もこの時期だけの問題ではなく、メディアケイド適用のクリニックの慢性的な混雑から始まって、児童福祉局を含む様々な社会福祉事業や病院の救急救命室まで続いていると言います。そして、ひとたび子どもが学校に上がれば、このシステムによって特殊教育や矯正クラスやオールタナティブ・スクールに回されるかもしれませんし、その後ティーンエイジャ―になればGEDプログラムやオンラインで行える単位回復のコースがあり、まともなスキルを身につけないまま高校を卒業してしまうようなこともしばしば起こっているとポールは言います。このようなことは学校内だけでなく、里親家庭や少年院、保護観察官なども含まれると言います。

 ポールは、「このような機関が特にうまく運営されていたり、そこに力のあるスタッフが集められていたりすることはほとんどない。TFAが送り込んでいるような新卒の教師に相当する、若く熱意のあるスタッフは皆無だ。そして彼らの仕事ではたいてい連携不足が起こっている。」ずいぶんときついですね。しかし、ポールはあらゆる所への取材と、熱心に取り組んでいる教師と知り合う中で感じたことなのでしょう。さらに、私が常々感じていることと同じことを感じているようです。

 「子どもやその家族について言えば、これらの機関とかかわることでストレスがたまり、疎外感を覚え、屈辱すら感じるというのはよくあることだ。システム全体を眺めても、莫大な費用がかかる割にひどく効率が悪く、成功の度合いは極めて低い。」それは、このシステムを通過して育った子どもに大卒者はまずいないし、幸福と成功に満ちた人生を示すほかのしるしもほとんど見られないからというのです。